マジコンとは何か

「DS用同人アダルトゲームが発売中止! 製作サークルは任天堂にブチギレ」
http://news.livedoor.com/article/detail/3774654/

「マジコン」関連のニュースが続いております。「マジコン」を使ったオリジナル同人ソフトをコミックマーケットで売ろうとしたら、コミックマーケットから参加取消しを受けたサークルが出ました。
ブログで製作者が「任天堂の圧力だ」と書いたために話題になっていますが、どうなのでしょうか? 事態をよく分析してみましょう。

●起こった事態 
コミックマーケット参加取消し」
●確認できる事実
1「マジコン」販売会社との密接な接点が見られる。(同人ソフト住所、電話番号が一緒)
2 コミックマーケットで一般サークルで登録している。
3「NDS初! オリジナル同人18禁ゲーム!」というノボリが用意されている。

この時点で、コミックマーケット側の取消し理由がいくつもできています。
コミックマーケット側として考えられる取消し理由
1 一般サークル登録で、企業が参加することは出来ない。
  企業に属していても個人での参加が出来ますが、配布されたパンフレットの裏面が全て「マジコン」の宣伝だったり極めて企業色が強いです。
2 ノボリから「マジコン」も同時に売ろうとしているが、コミケにおける市販品の販売は禁止されている。
  もしこれがOKになると、中国の格安で手に入れた「マジコン」を、ソフト付けただけで高値で売り捌くことが可能になってしまいますので、それはコミケの意義に反するでしょう。

これだけで参加取消しは十分です。では任天堂に参加取消しを要請する理由がないのでしょうか? それがあるのです。
任天堂側として考えられる参加取消しを要請する理由
 実は『商標権侵害』をしています。「DS」「NDS」は、任天堂登録商標なのですね。ノボリにはっきりと「NDS」という文字が入っていますし、パンフレットも同様です。また「DS対応」「NDS対応」という文字も任天堂登録商標ですから、パンフの「NDSに対応」の記述も引っかかっています。これを回避するには、任天堂に「ロイヤリティ」を支払うか、「ペンで動かすアレ対応ソフト」などとボカした記述にしなければなりません。
「マジコン」と関係なく、任天堂に参加取消しを求める正当な理由はあると言えるでしょう。

それでは「マジコンで動くオリジナルソフト」に対して任天堂が取消しを要請する可能性は無いのでしょうか? これも実は可能性があります。もちろんコミックマーケット側は販売を認めるでしょうが。
これは「そもそもマジコンとは何なのか?」ということに関わってきます。

◆「マジコン」とは何か?
「マジコン」で最もシェアを持つ「R4」を見てみましょう。基盤を見ると、めちゃくちゃシンプルです。IOを制御するチップとメモリを制御するチップの2つしか載っていません。
DSはDSカセットの特殊チップと、ソフトの暗号化プログラムの2つのプロテクトがあります。R4はIOチップで特殊チップのプロテクト解除を、カーネルと呼ばれる暗号解読プログラムでソフトのプロテクトの解除をしています。「マジコン」全体に言えることですが、前者の特殊チップ解除に問題があります。

●「ロックアウトチップ訴訟」(1989)
アタリ社がファミコンソフトをロイヤリティを払わず販売。販売差止めを受けないように独禁法違反で任天堂を訴えます。対して任天堂著作権侵害で逆提訴しました。なんかどっか見たような光景ですね。
ファミコンにはDSに載っているような特殊なプログラムチップが積んであり、カセットの中の解除チップが無いと動かないようになっていました。「ロイヤリティ」とは、この解除チップの購入契約ですね。(他にもロゴの使用などありますが)
裁判が進むにつれて判明したことは、アタリ社がこの解除チップの解読(リバースエンジニアリング)に失敗し、任天堂アメリ著作権局に提出していたソースコードを虚偽申請で取得していたこと。そして解読後の著作権回避作業(クリーンルーム設計)せずに、ほとんどそのままソースコード使用していたことでした。アタリは敗訴し、販売も差し止めになりました。

友人に「マジコン」のチップと正規DSソフトの解除チップの比較をしてもらったのですが、全く著作権回避作業(クリーンルーム設計)が行われていません。要するにコピーチップです。任天堂著作権違反で訴えれば、ほぼ間違いなく勝てるでしょう。そして「マジコンで動くオリジナルソフト」も「マジコン」と一緒に売るほど切り離せない関係ですから、アタリのときと同じく販売差し止めにすることができると思われます。

ではなぜ任天堂は訴えを起こさないのでしょうか?
アタリが解除チップの解読に失敗したように、肝心のところはブラックボックスになっています。しかしどこまで似ているかを証明するには、自分から解除チップの情報を公開しなければなりません。これではブラックボックスにした意味がなくなってしまいます。
そして販売差止めを勝ち取ったとしても、数年後には、公開した情報から本当に著作権を回避した「マジコン」が登場する可能性があります。これでは任天堂の得となることは、ほとんどありません。
任天堂が訴えない理由は、こんな所にあるのではないかと思われます。

しかし訴えないからといって、コピーチップが認められたわけでありません。チップが載っているR4を始めとする「マジコン」もしかりです。確かに中国のコピー技術は大したものだと言えます。アタリが失敗したことに成功している点でも、中国凄しと言えるでしょう。それでもコピーはどこまで行ってもコピーなのですね。
他の人間が一生懸命開発したモノに、タダ乗りしているということだけは、忘れてはいけないと思います。