破綻するビジネスモデル〜欧米ゲーム市場の危機

ほんの一年前のことです。
欧米のゲーム業界は我が世の春を謳歌していました。

「日本も外注先に?ゲーム開発費高騰で進む国際分業・GDC08報告(2)」2008/03/09

アメリカのゲーム開発者の全職種の平均給与は7万3316ドル(750万円)と非常に高い額になっている。職種別でもっとも高いのがプログラマーで8万886ドル(約830万円)。グラフィックを担当するアーティストで6万5107ドル(約670万円)、日本の企画職にあたるゲームデザイナーで6万1538ドル(約630万円)となっている。年収が1000万円を超えるプログラマーはざらにいると言われている。特にエース級のプログラマーであれば数千万円という、日本ではにわかに信じられないような高額の給料を得ている人もいるという。
http://it.nikkei.co.jp/digital/column/gamescramble.aspx?ichiran=True&n=MMITew000007032008&Page=1

ところが年が変わって状況が一変します。
海外ゲームメーカーの巨頭、EAとアクティビジョンリザードが共に赤字に転落したのです。

「EA、10-12月期は赤字拡大」
6億4100万ドルの赤字 前年同期は3300万ドルの赤字
売上高は16億5000万ドルと、前年同期の15億ドルに比べて10%増加
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/media/djCPV5625.html

アクティビジョン
売上1387億円(売上前年比1.5倍)
営業利益 −86億円(前年134億円の黒字)
http://investor.activision.com/results.cfm


さらにビッグタイトル「GTA4」で大ヒットを飛ばしたはずのテイクTwoが、1億3800万ドルの赤字を計上。
そして「Saints Row 2」でヒットを飛ばしたはずのTHQが、1億9180万ドルの赤字を出してゲームスタジオを閉鎖。
http://japan.gamespot.com/news/story/0,3800076565,20387759,00.htm

現在マイクロソフトのセカンドとしてゲームを開発中のレア社も、5000人規模のレイオフ
http://www.inside-games.jp/news/337/33734.html

モータルコンバットのMidway Gamesが倒産。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0902/13/news046.html

いや実に惨憺たる状況です。
ソフトのデキが悪くて、売れなかったのなら問題は簡単です。
でもそうではありません。上記のゲームメーカーは、それぞれ看板となるソフトを発売し、しっかり100万本を軽く越える売り上げを記録しているのです。
売れているのに儲けが出ない。それも倒産寸前になるほど赤字が出てしまう。これは明らかに歪んだ状況です。

Slate紙はこの状況を分析し、

「ゲームのスケールを小さくし、ストーリーを短く、グラフィックの質を下方修正し、既存の技術をリサイクルすることが必要である」
http://www.inside-games.jp/news/337/33716.html

としました。
つまり損益分岐点を遥かに越えて、開発コストがかかっているんですね。
既にPS3は3年目、Xbox360は4年目に突入しているわけで、導入開発コストが一段落して利益率が上がってこなければならない時期です。しかしSlate紙によると、開発コストは3年前に比べても倍に増えています。でも販売本数は、倍近い数字にまで増加していません。当然ですね。GTAシリーズが3で800万本売れたからと言って、続編が確実に1600万本売れるかはわかりません。倍になることを期待して投資を続けるなんて、最初から無理な話なのです。
いわゆるHD環境のもたらす微細な映像と、それを可能にするPS3やXox360といったハイエンドゲーム機の登場。これに欧米ゲームメーカーは飛びつき、文字通り湯水のように資金を注ぎ込んでしまいました。採算度外視のツケはたった1年で現れ、欧米ゲーム業界は危機に陥ったのです。完全にビジネスモデルが破綻したと言っていいでしょう。
幸いにして問題点ははっきりしています。必要なのは、「身の丈にあった経営」。どこかで聞いたフレーズですね。バブルに踊った日本企業に散々指摘された言葉です。
今回の欧米ゲーム業界の場合、「高すぎる開発費」が全ての原因ですから、「損益分岐点を見据えた、開発費の圧縮」をすればいいのです。
高度なグラフィックを作るために人数のかかる部分は、外部へのアウトソーシングを。PS3Xbox360の、マルチコア、マルチスレッドに対応した高度なプログラミングを行うプログラマーは、マルチスレッド率90%以上は目指さず、75%程度で折り合いを。
次世代機の売りであった「高度なグラフィック表現」が破綻を呼んだというのは、なんとも皮肉な結果ですね。