あれから5年。FC東京、灰皿事件を振り返る

2005年7月9日、FC東京VS東京ヴェルディによるダービー戦。FC東京サポーターによる、試合開始前にコンコースをアウェイ側にパレードする恒例のパフォーマンスの中で、それは起きました。ヒートアップした1人のFC東京サポーターが、灰皿の蓋を投げるという暴挙を行ったのです。 世に言う「FC東京灰皿事件」ですね。
この事件で、サポーターは傷害罪。FC東京クラブ側は1000万円の懲罰金を支払うことになりました。

あれから早5年。たった5年前なのかという気もしますが、事件の背景を振り返りたいと思います。
始めに書いておきますが、この記事は暴挙を行った1人のサポーターを擁護するものではありません。
その前の

1 なぜコンコースをアウェイ側へパレードするパフォーマンスが行われていたか
2 なぜクラブ側は挑発とも取れるパフォーマンスを黙認していたか

以上2点を振りかえるものです。どうかその点勘違いなさらぬよう。


1 なぜコンコースをアウェイ側へパレードするパフォーマンスが行われていたか

発端は、1993年11月に遡ります。
東京ヴェルディを調布に誘致しようという動きが起きました。この時よく名前の出てくる「スタジアム建設促進とプロサッカーチームを調布に誘致する会」は、調布市も絡んだ動きだったのですが、それとは別に「調布に読売ヴェルディを誘致する会」などという聞いたことも無い会が割り込んできたり、かなりキナ臭い状態でした。
当時の市民の反応は「無視」。ここでもっとヴェルディに対する敵対意思をはっきり出していれば、灰皿事件は起きなかったかもしれません。とにかく、この時の騒ぎで、「反ホームタウン制の権化」というJリーグの理念を無視したチームとして、「ヴェルディ」というチームは、その悪名を調布に残すことになりました。
 
時代は進み、2001年。
名門読売ヴェルディは凋落し、東京へとホームグラウンドを移転することになりました。
この時、FC東京サポーター側の反応は、やはり「無視」。1993年移転問題のときと、全く同じです。しかし今回は、本当に移転してきてるわけで、無視すれば済むような問題ではありませんでした。
しかしそれも仕方が無かったと思うのです。ちょっと想像してみてください。
「地元密着の理念を顕現させてJリーグ初代優勝となった鹿嶋市を手本として、ヴェルディがホーム移転してくる。鹿島アントラーズにとって2つ目の地元チームとして、明日はヴェルディとのダービー戦である」
または
浦和レッドダイヤモンズは熱狂的なサポーターが支える強豪へと進化した。これを手本として、共に戦う地元チームとしてヴェルディがホーム移転してくる。明日はそのヴェルディとのダービー戦である」
他にも
「県を挙げてのサポートで注目された新潟に、新生ヴェルディが移転してくる。新潟ではこれから更に熱い戦いが繰り広げられるだろう。明日はそのヴェルディとのダービー戦である」
などなど。
自分の地元に、来期から突然ヴェルディがダービー相手として移転してきたら、どうでしょうか? あなたはどのようにヴェルディを迎えますか?

「よし! 来期から同じ地元の敵として、ダービーを戦うぜ!」

「は? いやいや、だってここヴェルディの地元じゃないじゃん。そんなのダービー相手じゃないだろ?」

残念ながら、FC東京サポーターは後者が大半でした。みなさんはいかがでしょうか? 前者のようにヴェルディを、同じ地元で戦う敵として迎えられますか? 
地元否定の火種を抱えてきたヴェルディに対する反発。聞いたことも無い会まで動いた政治的な騒動に対する批判。川崎サポの無念への気持ち。そして何より空から降ってきたような、地元チーム出現に対する冷笑は、当時のダービー戦に圧倒的な「無視」となって降りかかりました。
 



2 なぜクラブ側は挑発とも取れるパフォーマンスを黙認していたか
 
そして遂にあのパフォーマンスが始まったのです。
試合前のコンコースを20人ほどのサポーターが、東京コールなどをしながら練り歩いていきます。正直言って、最初にその光景を見た私は「これはチンドン屋だな」と思いました。周りにいる普通のサポーターも、「何やってんだ」というような笑みを浮かべて、呆れて見ています。
はっきり言って、VSヴェルディを「ダービー戦だ」などとヒートアップするサポーターは、ほんの一握りでした。コンコースを行進していたサポーターですら、どこまで本気だったか不明です。むりやりダービー気運を盛り上げようとするパフォーマンスは、FC東京サポーターの中ですら異端中の異端でありました。
 
クラブ側もこのパフォーマンスを黙認しました。試合前にアホなことをやってる一部サポータに、いちいち目くじら立てるほど、クラブ側は暇ではありません。むしろ冷え切ったダービー熱を盛り上げるいい材料だと思っていたのではないでしょうか?基本的に冷めたサポーターの多いFC東京の場合、上からダービー、ダービー叫んでも浸透なんてしませんから。
しかし継続は力ですね。時間と共に少しずつヴェルディはダービー相手として根付いてきました。FC東京も選手層が厚くなり、代表に呼ばれそうな選手が増えたお陰で、サポーター層も増えてきます。
ダービー戦前のコンコースのパフォーマンスは、いつしか200人に上る大イベントとなりました。そして勢い余って灰皿を投げるバカが生まれる事態となったわけです。
 
200人と言う大所帯になっていた段階で、クラブ側が止めるべきだったと見ることもできるでしょう。ダービー戦だけのパフォーマンスは、傍から見れば挑発行為の何ものでもないように見える段階まで来ていました。残念ながら事件が起きるまで、そのことに気付けなかったのは、やはりミスだったと思います。
 
灰皿事件が起きた際、コンコースでのパフォーマンスしたコアサポーターや、それを止めていなかったクラブ側にも批判がありました。
事件を起こした1人のサポーターを批判するのはわかりますが、背景を知らずにサポーターやクラブ側に「あんな挑発行為をすれば、当然事件は起こる。それをしたサポーターやクラブ側が悪い」と言うのは、間違っていると思うのです。
「突然ヴェルディが地元にやって来る」という前代未聞の状況に遭遇したのは、FC東京だけです。しかもあのヴェルディが。はっきり言って、JFLから地道に登ってきたチームだったら、あんなパフォーマンスはやっていないでしょう。そんなことしなくても、十分ダービーマッチは盛り上がりますから。
 
「もし自分の地元にヴェルディがやってきていたら――」。そのことに思いを馳せて、灰皿事件を見て欲しいと思います。