体感ロード時間ゼロが生み出した『次世代ゲーム』の金字塔――ゼノブレイド

ゼノブレイドをクリアしました。このまま2週目に入ります。よくわからず変な結果にしてしまったクエストがあるので、それをなんとかしなければ。
さて傑作と言っていい評価のゼノブレイド。その理由は何なんのでしょうか? 分析してみたいと思います。
 



■ロードタイムへのこだわりが、遂に結実
まずゼノブレイドと言えば、広い広いマップが特徴です。ロードがないと言われていますが、Wiiの駆動音を聞けばわかる通り、ロードはギュンギュンしてるんです。しかしそれを感じさせない先読みが凄いんですね。
とはいえマップからランドマークへのスキップがノータイムでできてしまうのは、マップデータをメモリに余程上手く格納していないとできません。またゲーム内時間を飛ばせる機能も、ノータイム。夜から昼へ、快晴から土砂降りの雷雨へもノータイム。これをやってしまうのは驚くほかはありません。
もちろん通常のロード、セーブも早い早い。

Wiiメニューからタイトル画面表示まで 16秒
・ゲームファイル、ロードタイム      13秒
・ゲームファイル、セーブタイム       4秒

このゲーム、ほぼムービーはリアルタイムレンダムービーなので装備がムービーに反映されるのですが、ゲームが進んで回想シーンになっても、当時の装備そのままのムービーが流れます。ということは、ムービー時点の装備データを記録しているということになりますよね。他にも膨大なクエスト進行フラグや、溢れかえるアイテム。またフィールドに残った宝箱も最大で20個残るなど、セーブデータは決して小さくないはずですが、4秒と言うとんでもない速度でセーブされます。
ロードもセーブも、まさに謎の技術。
この技術を支えているのが、1T-SRAMというメモリです。MoSys社という会社が開発した独自規格のこのメモリは、通常のメモリより高速で稼動するeDRAMより高速で書き出し、読み込みを行えます。
 

SDRAMではメモリアクセス要求をしてから実際にデータが出力されるまでおよそ6サイクル程度必要である。通常4ワードのバースト転送が行われるのでデータ転送に4サイクル、その後DRAMではいったんデータを読み出すとデータが消えてしまうので、それを書き戻すプリチャージに2サイクル、と計12サイクル(レイテンシ(6)+データ転送(4)+プリチャージ(2)=12)かかってしまう。DDR-SDRAMでもデータ転送にかかるサイクル数が半分になるだけであるので、アクセスサイクルは10サイクルと2サイクル減少するだけである。
これに対し、1T-SRAMSRAMと同様に次のサイクルでデータにアクセスできるため、4ワードに対して5サイクルとなる。メモリクロックとバス幅が同じとすると、SDRAMにあわせて4ワード単位のサイクル数で比較しても2倍以上の違いがあるが、1ワード単位のレイテンシのみで比較すると6倍もの差となる。オンチップの1T-SRAMのクロックが400MHzとすると、PC133と比較して、さらに3倍の差が現れる。
http://journal.mycom.co.jp/news/2001/02/07/17.html

2001年というかなり古い比較記事ではありますが、通常のメモリを積んだパソコンと比較してレイテンシのみで6倍。オンチップの総合比較だとさらに3倍と言う相当の差が出るほど早いメモリです。ちなみにWiiは、次に早いとされるeDRAMも3MB積載しています。またXbox360もこのeDRAMを10MB積んでいます。ゲーム3機種の中ではPS3だけ通常のメモリのみです。メモリで足を引っ張られてると言われるPS3は、この点にも原因があるのかもしれません。
かつて初代PSが出た際、任天堂アクセス時間を気にしてカセットメディアを選択しました。もっとも当時はカセットに付随する莫大な利益構造への執着が主な理由だったと思います。が、当時から何かとアクセス時間に気にする発言が多かったのは事実です。アクションゲームにドル箱タイトルを多く抱える任天堂にとって、ロード、セーブといったアクセス時間は、ゲームのデキをも左右する大問題でありました。
しかしあれから10年以上。メモリの性能が目に見えて上がり、今はそれほどアクセスに気を配る必要はありません。それでも任天堂は、Wiiに1T-SRAMという速さに特化されたメモリを採用しました。通常据置ゲーム機は、コアとなるCPUのコストが一番高くなるものですが、Wiiの場合1T-SRAMのコストがCPUに匹敵する構成になっていると思われます。
ゲームに直結する性能と言えば、PS3Xbox360のようにグラフィックに振った方が、極めてわかり易い性能進化を示せるでしょう。どう考えてもセーブ、ロードはゲームの要素としては、瑣末な問題です。アクションゲームが命綱と行っても、他のたくさんのジャンルへの影響を考えれば、余りにバランスを欠いた選択です。いや「でした」。
ゼノブレイドがその真価を示すまでは。



■ひたすら上を目指す特異なRPG
高速読み込みで実現したのが、広さと高さのあるフィールドでした。
2柱の神の上に広がっている世界なので、自ずと平面的な広さには限界があり、膝とか腰とか上に登っていくことに違和感がありません。「社長が聞く ゼノブレイド『シナリオ編』」で、製作のきっかけとなったジオラマの写真を見ることができますが、この最初のコンセプトの勝利だったと言えそうです。それでは、その特徴のあるフィールドを、少し見てみましょう。
・洞窟を抜けたプレイヤーを出迎えるのが、「ガウル平原」です。腰高くらいまである草原が、ひたすら続いています。遠くに巨大な門のような岩が左右から覆いかぶさるようにあります。残念ながらこの門自体には上れないのですが、到着すると下に大空洞が広がっていることに気付き、絶句するフィールドであります。
このゲームは、コンシューマゲームでは珍しく序盤のフィールドから高レベルモンスターが闊歩してまして、いきなり絡まれて全滅することも珍しくありません。その代表格なのが、ガウル平原をノシ歩く「縄張りバルバロッサ」です。ユニークモンスターの中では珍しく喧嘩っ早く、突然戦闘に割り込んできて猛威を振るう歩く災害のようなモンスターです。
・次の「燐光の地ザトール」は、夜と昼の差が極めて大きいフィールドです。昼は沼地ばっかりで陰鬱な姿ですが、夜になるとエーテルが光ながら蒸発していく美しいフィールドとなります。その代わりなのか、モンスターレベルが3倍くらいに跳ね上がります。BGMも幻想的なものになり、「これぞファンタジー」という華のあるフィールドです。
・オブジェクトの数と言えば、「マクナ原生林」でしょう。ここは種々雑多な植物が鬱蒼と茂る、まさに原生林としか表現しようの無い森です。奥地には恐竜のような通常モンスターが闊歩しており、レベルも90台を突破してしまいます。対してプレイヤーのレベルは30そこそこ。できるだけ見つからないようにコソコソ移動するのですが、クエストの1つがこの90越えのモンスターの通り道になっており、わき道に引きずり込む一工夫が必要だったりします。
・そして「高さ」の象徴、「サイハテ村」。ノポン族の総本山ではあるこの村は、巨木のくり貫かれた中をテッペンまで貫通しています。無秩序に拡張したのがバレバレで、細い通路がクルクル回りながらつながっています。ノポン族の身体に合わせた作りは、ホムスには小さく、足を踏み外して転落することが極めて多くなります。色合いといい、街全体の能天気な雰囲気といい、ノポン族の味が良く出たフィールドです。同時に極めてJRPG的と言いますか、このような街は海外の人には作れないでしょう。
・エルト海は文字通り海です。個人的に鯨みたいな巨大な水生生物を出して欲しかったところですね。このゲームの主人公たちは水中戦闘ができませんので、戦えないでしょうが、泳いでる下を巨大な何かが横切っていく演出があると面白かったんですが。
・機神界フィールドは、一転赤サビと金属の世界に統一されます。機神界にも気候はあるわけで、いろいろなフィールドを見たかったのが残念です。
 
このフィールドを主人公たちは走り回り、シームレスに敵との戦闘を行います。その戦い方は、パーティー構成やジェムと言われるステータス上昇アイテムを駆使して、リアルタイムで戦うものです。この組合せによって、強い敵にも互角の戦いができるため、奥の深い戦闘となっています。



■次世代ゲームの進む道
次世代機になって、ターン性のバトルシステムは一気に古臭くなりました。リアリティ溢れるキャラクターが、コマンド入力中や敵の攻撃との間、ぼーっと突っ立ったままなのは、非常に違和感を引き出します。
現実ではターン性で物事が運ぶことはありません。またマップ移動からターン性のバトルシステムに入ることは、2つのモードを行き来するわけで、ゲームの流れがぶつ切りになってしまいます。バトルとフィールド移動が融合し、互いに相乗効果を高めるためには、やはり「シームレス」というのが鍵となるのですね。
ゼノブレイドは極端にアクセス速度の向上を目指すことによって、「進化がない」と悪評が立っていたJRPGを新しい次元に導くことに成功しました。もちろんザトールの夜の光景や、エルト海の流星群など、美麗でロマン溢れる世界描写も忘れていません。このファンタジー的お約束を踏襲しながらも、日本産RPGの進むべき道を明快に描ききったところが、ゼノブレイドの最も重要な点ではないでしょうか。
切り開いた「次世代ゲーム」の道筋を、これから出るJRPGがどのように昇華していくのか、本当に楽しみです。
ファイナルファンタジーの坂口氏入魂の作品「ラストストーリー」が、今年か来年の早いうちに発売されると思いますが、「ゼノブレイド級」の作品に達しているのでしょうか? 大変ですよ、ゼノブレイドを基準に評価されると。
 
最後に、ここが欲しかったと言う要望と感想を。
やはりモンスターぺディアが欲しかったですね。名前と生息地がわからず、フィールドを走り回ることになったのは残念です。あと何気に良かったのは、フィールドにアイテムが、ポロポロ落ちているところ。フィールド駆け回る意味づけとして小さいですが、大きなアイデアだったと思います。
そしてストーリーは実に漢臭い内容でありました。それからみなさん、ヘルプを見たでしょうか? 会話形式なのですが妙に漫才チックで笑えます。
現在総プレイ時間202時間42分。バグの少なさといい、実に手の込んだ傑作でありました。