後藤氏WiiUの評価を改める。が、PS3に有利な変な図を作る

後藤氏の「プロセス技術とアーキテクチャの利を得た「Wii U」のGPU 」というコラムが更新され、GPUの世代が判明したことにより、大きく評価を入れ替えました。

任天堂が来年(2012年)に投入する次世代ゲームコンソール(据え置き型ゲーム機)「Wii U」。業界関係者によると、そのGPUアーキテクチャはRV770系以降のアーキテクチャにコンソール向けの拡張を加えたものになるという、PCで言うとゲーム向けビデオカードクラスの性能を達成し、プロセッシングではPlayStation 3(PS3)やXbox 360を大きく凌駕するという。当初の予想を上回るスペックは、任天堂の方針が、よりパフォーマンスへと振れていることを示唆している。
 
任天堂がやる気なら、シェーダ時代に最適化されていなかったPS3Xbox 360に対してプロセッサ数と生パフォーマンスでは圧倒的な優位に立てる計算になる。PS3Xbox 360を大きく凌駕すると見るのは間違いではない。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/kaigai/20110726_463041.html

間違いではないそうです。前回WiiUの性能を取り上げた内容を振り返ってみましょう。

Xbox 360はよりシンプルなIn-Order実行パイプライン2発行のPowerコア3個を3.2GHzで駆動する。PS3は、ヘテロジニアスマルチコアのCell Broadband Engine(Cell B.E.)でXbox 360のコアに近いコアが1個と、SPU(Synergistic Processor Unit)コアが7個で3.2GHz。相対的には、やはりWii Uの方がプロセッシングパフォーマンスは低くなる可能性が高い。
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/column/kaigai/20110613_452762.html

随分大きく修正することになりました。が、同時に後藤氏の出した図がどうも変です。詳しく見ていきましょう。
GPUのプロセッサ数と世に出た年、そしてプロセスルールの表です。Xbox360が48ユニット、対してPS3が8+24=32ユニットです。Xbox360の方がユニット数が多いため、PS3との位置が逆の方が正しい気がするのですが、横のスケールが発売年になっているため、こうなっています。ここで語られているのは、発売年でどのくらいユニット数の違いが出たかなので、こういう表になるのですね。ユニット数だけですと、年末に発売予定のPS VITAにも劣るGPUを積んでることになります。
さて、この横のスケールが、プロセスルールと発売年になっているのが曲者です。特に発売年ですね。Xbox360の方が1年発売が早いのですから、PS3の左側に必ず来るわけです。後藤氏はこのスケールを今回ずーっと使い続けてしまいます。もちろんスケールをコロコロ変えると比較が難しくなって意味がわからなくなる場合もあります。しかしこの横のスケールだけ同じものを使うことが、逆に誤解を生むのでは本末転倒です。
 
次の表を見てみましょう。
GPU世代の分布図です。この表は、GPU全体で、現在PS3Xbox360GPUがどの辺りにあるかを示す図です。上に行くほど高性能です。現在は下手すると2つも桁が違うのですが、縦スケールが詰まっているため、実際のパフォーマンスほど差はないように感じられます。またこの表から、Xbox360の方が性能が高いGPUを使っていることがわかります。が、PS3Xbox360は同じ90nmのプロセスルールなので、縦に並ぶはずが、最初の発売年のスケールを使っているため、PS3の方が右にズレています。
 
さらにこのスケールを使い続けます。

http://pc.watch.impress.co.jp/img/pcw/docs/463/041/html/06.jpg.html
ついにこの表です。なぜか、Xbox360PS3よりも性能が低く見えます。これは縦スケールがこれまでのユニット数ではなく、今度はダイサイズになっているからです。なので、下に行くほどコストが低く優秀になります。「PS3 RSXはアーキテクチャの転換が始まる直前のGPUコアで、そのためにユニファイドシェーダ化以降の急激なプロセッサ数の増加から取り残された。Xbox 360 Xenosは旧来アーキテクチャから半歩踏み出しているものの、同じATI系の強烈なプロセッサ密度向上アーキテクチャからは引き離された。」と書いているのに、この表からそれが全く伝わらないのは凄いことです。
 
そして決定的なのがシェーダー技術のレベルの表示です。なんとDX10世代のピンクの枠にPS3GPUが半分以上入っています。自分で「PS3のRSXも、DirectX 9世代初期のハイエンドGPUクラスだ。」と書いているにも関わらずです。もちろんPS3はDX10世代に対応していません。横のスケールを発売年にしているので、DX9世代の中で右に行くほど技術が高い錯誤が起きますが、楕円の右端でも左端でもDX9世代の技術レベルに差があるわけではないのです。
 
GPUの性能を比較するなら、どの発売年だろうと「ユニット数はどのくらいか」「シェーダーレベルはどこまで対応しているのか」を比較しなければなりません。なぜ最後まで発売年を横スケールに使い続け、誤解を与える表にしているのか理解に苦しみます。
 

AMDがGraphics Core Nextで行なおうとしているのは、NVIDIAがG80で行なったのと同じような大転換だ。このことは、G70アーキテクチャPS3のRSXが、G80の転換に取り残された時を思い起こさせる。任天堂は、AMDアーキテクチャ改革の直前のアーキテクチャを採用することになる。
とはいえ、ゲームコンソールのグラフィックス機能という面だけを見れば、これはそれほど大きな問題ではないかも知れない。汎用コンピューティングへの最適化は、伝統的なグラフィックス性能/トランジスタを落とす可能性が高いからだ。現状のグラフィックスを考えるなら、むしろGraphics Core Nextになる前のAMD GPUアーキテクチャの方が、ゲームコンソールに向いているかも知れない。PS3の場合は、シェーダグラフィックスの性能と機能の面でも、G70系アーキテクチャが取り残されたことが痛かった。

前段物凄い誤解を与える文章です。PS3の二の舞のようにWiiUがなってしまうかのようですね。しかし御自分ですぐ否定しているように、PS3の採用したG70とG80の差が大きくなったのは、これまで上の方に書かれていたとおり、まずユニット数が爆発的に増え、ユニットの性能向上も行われたせいです。AMDの転換が影響を与えうると書くのは、相当無謀だと言えるでしょう。そもそも、汎用コンピューティングが、グラフィクス専用コンピューティングを凌駕すると考えるのは「かもしれない」どころではなく、ほとんどありえない話です。将来そうなるとしても、今後5年でひっくり返るような凄まじい技術向上があるとは到底思えません。
そして横のスケールを時系列にしたせいで分かりやすくなっていますが、後継のG80は、PS3のRSXとほとんど同じタイミングで発売されました。PS3がG70を掴まされたのは、ひとえにNVIDIAの責任です。はっきり書きますと、PS3はカモられたんです。NVIDIAに。同じようなことが、WiiUXbox360の後継機種に起きることはないと言わざるを得ません。
 
最後に
「今後のコンピュータデバイスは、GPUコアのようなデータ並列プロセッサを汎用に使うヘテロジニアスコンピューティングに向かわざるを得ない。そうした流れの中で、Wii Uの選択は妥当かどうかは、おそらく2010年代の中盤あたりまで行かないと判断できないだろう。」
意味がわかりません。おそらく「2010年代の中盤」は2012年か2013年の誤記ではないかと思うのですが、もう2011年の半年過ぎたのに、2010年と書くなんて、後藤氏は大丈夫なんでしょうか?