本当はヤバい「バイラルマーケティング」

バイラルマーケティングというマーケティング手法を知っているでしょうか? 
口コミを使ったマーケティング手法で、ブログやツイッターを使用し、テレビCMより安価に、商品宣伝を行う手法です。 典型的なものは有名人が、製品の使用感想を言うという、深夜番組のような内容のCMですね。こういったテレビCMでは、「使用者の個人の感想です」といった注意書きが入りますが、ブログやツイッターではそういう表記はほとんどありません。 バイラルマーケティングが、容易にステルスマーケティングに変化しやすい理由もここにあります。
バイラルマーケティング発祥の地アメリカでは、2009年にアメリ連邦取引委員会が、違法行為を定めました。

「FTC Regulates Blogger, Viral Marketing Relationships」
(FTCがバイラルマーケティングブロガーを規制)
http://www.revenews.com/affiliate-marketing/ftc-regulates-blogger-viral-marketing-relationships/

これによると、商品の提供や、報酬を貰ってのブログへの活動は、雇用者との関係性を明らかにしなければならないとしています。要するにステルスマーケティング禁止です。しかしさすがアメリカ。どんな形でも雇用者との関係性を明らかにすれば、ステマにならねえぜとばかりに、やりたい放題なのです。「WOMMA」(口コミマーケティング協会)のホームページを検証してみましょう。
 
WOMMAが称える凄い活動内容
アメリカの口コミマーケティング協会は、アメリ連邦取引委員会ステルスマーケティング規制の発表をしたとき、「ソーシャルネットワークやブログの内容が信頼される決定を歓迎する」とコメントを出したほど、余裕たっぷりでした。しかしその活動内容を調べると物凄いです。

「Experiential Award 2010」
Random Buzzers Word of Mouth Marketing Case Study
http://womma.org/deprecated/WOMMY2010/winners.html

上のサイトは、口コミマーケティング協会の公式サイトです。ここでは毎年優秀な口コミマーケティングを表彰していまして、2010年の体験賞の金賞は、Random House出版社の口コミマーケティングでした。内容はRandom House出版社が「Random Buzzers」というコミュニティサイトを立ち上げ、サイト独自の架空通貨「Buzz Bucks」を運用し、登録ユーザーに配るというもの。この「Buzz Bucks」が貯まると、なんと作家本人とチャットできたり、新刊の見本を手に入れられるという豪華特典が売りとなっています。
ただ、この架空通貨を獲得する方法が怪しい。なにしろ新規ユーザーを獲得したり、書籍の宣伝をブログなどですると貰えるのです。しかもこの「Random Buzzers」の主要ターゲットはなんと10代! ティーンエイジャーを囲い込み、登録者数は9万人を突破し今も上昇中です。
書籍の大絶賛が、実は架空通貨狙いと解らない辺りは、ステルスマーケティングと言えそうです。なにより特典で10代を釣って、広報活動に加担させる行為は、倫理的にかなりグレーゾーンでしょう。そんなサイトに金賞を与えてしまうのがWOMMAという団体なのです。
しかし、この程度はまだ序の口です。2009年の受賞内容を見てみましょう。

「Integration Award 2009」
Fake Candidate
Greenpeace
http://womma.org/deprecated/WOMMY/examples/#fake

2009年の統合賞を受賞したのは、過激な環境保護団体グリーンピースです。
「偽の候補」と名付けられたこのマーケティングは、グリーンピースが、トルコの石炭発電所新設に反対して行いました。何をしたかと言いますと、なんと地方選挙に雇った俳優を立候補させ、選挙活動として自然保護のキャンペーンを行ったのです。投票直前に正体をバラしたそうですが、活動費9000ドルが、テレビ取材や新聞インタビューで、43,000ドルの黒字を生み出し、宣伝費換算で67万5000ドル相当の効果が出たそうです。
当然のことですが、日本でこんなことしたら、間違いなく公職選挙法違反です。最後に正体を明かしたからいいのだ、などという問題ではありません。 言論の自由、思想信条の自由を行使するなら、グリーンピースは俳優など使わず、自分で候補に立てばいいのです。 俳優が金で雇われて、公式の選挙に紛れ込み、キャンペーンを行う。こんなことを「マーケティング手法」として許したら、選挙制度は崩壊してしまいます。
グリーンピースのやったことは、トルコを馬鹿にしていますし、選挙制度を馬鹿にしていますし、ひいては民主主義を馬鹿にする行為です。
そしてWOMMAは、これを金賞に選びました。この団体の倫理観のなさは、常軌を逸していると言わざるを得ません。
 
WillVii社長、塚崎氏の語るあるべきバイラルマーケティングとは 
「みんぽす」を運営するWillVii社の塚崎社長は、WOMMAの掲げるガイドラインを「業界が決めた最も厳しいもの」とインタビューで答えています。
まぁ確かにガイドラインは立派です。問題はそれをどう運用するかですね。たとえ最後に雇用者との関係性をバラしたとしても、やっていいことと悪いことがあるのです。たとえばWillVii社が運営する「みんぽす」や「ゲエムノセカイ」で、契約メーカーの製品が突出して評価されちゃうようでは意味がないわけです。

ステマは「犯罪的」──専門企業に聞く、あるべきバイラルマーケティング
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1201/30/news079.html

専門家として呼ばれてしまったWillVii社の塚崎氏ですが、このインタビューを読みますと、バイラルマーケティングについては冒頭だけで、あとは自社の運営する口コミマーケティングが、いかに問題ないかを語っているだけです。その内容をまとめてみましょう。
1 貸与された製品であること示す文章を必ず入れている
2 WillVii社は掲載内容に一切関与していない
3 無報酬である
なるほど。これが実践されているなら、問題ないような気がします。

 
歴史は繰り返す。WillVii社の大先輩

実は、過去に日本でもステルスマーケティングが発覚し、大騒ぎになったことがあるのです。
2006年11月3日、NHK「ニュースウォッチ9」で、「“クチコミ”に注目 広告戦略の舞台裏」 というカリスマ現役大学生ブロガーの一日を追いかけた特集が放送されました。なんとそこに描かれていたのは、映画やレストランに招待され、化粧品を支給され、1件数千円の報酬でブログに記事を書く、ステマブロガーの姿でした。当然、2ちゃんねるでは「やらせではないか」と突込みが入り、女子大生のブログが炎上する騒ぎに。

NHKに取り上げられた女子大生のブログ炎上」
「ニュースウォッチ9」には、1日に1万人が見るブログを運営する女子大生で雑誌の読者モデルを務める坊農(ぼうのう)さやかさんなどが登場。映画の試写会にでかけたり、レストランでタダで食事をする様子などが放送された。また、別のブロガーは企業から提供された化粧品や飲料を手渡され、「上手なブログの書き方」を指導されている様子が映された。ブロガーはこうした商品の話を自分のブログに書く事で、1回につき数千円の収入を得られるのだという。
http://www.j-cast.com/2006/11/07003721.html?p=2

この番組に取り上げられた口コミマーケッティング会社こそ、WillVii社の大先輩。口コミマーケティング会社ナレッジパークです。大騒ぎとなったステマ事件について、ナレッジパークは弁明を公式ブログに載せました。ナレッジパーク社は今別の名前の会社になっていますので、web.archiveで参照してみましょう。

「一部報道に関して」2006年11月04日(土)
昨日放送されたニュース番組で、弊社所属のカリスマ女子大生ブロガーに関して、誤解を招く内容が一部ありました。そちらを踏まえ、今後誤解がありませんように、以下に弊社のブロガーに対するポリシーを記載致します。
1. 弊社がブロガーに企業の商品について書いてもらう際には「提供された。」という一文を必ず冒頭に入れています。
2. 弊社がブロガーに企業の商品について書くことを依頼する際は、本人の感想をそのまま記載するよう伝えており、一切の脚色はありません。
3. 弊社のブロガーが掲載を依頼した商品の記事を書くことを拒んだ際には、それを尊重し、その旨を企業側に伝え、掲載することはありません。
以上3点をこれまで通り遵守し、今後、このような誤解がまた起きないよう業務を邁進していきます。
http://web.archive.org/web/20061109161053/http://www.k-park.com/

なんか、書いてある内容に、物凄い既視感を感じます。しかもこのナレッジパークは、2006年01月29日に「ステルスマーケティングに関する考え方」という指針まで公開しているのです。

「女子大生セグメントではステルスマーケは無意味」2006年01月29日(日)
アルファブロガーなどに秘密裏で特定に企業の商品やサービスを取り上げさせたり、褒めさせたりすることをステルスマーケティングといい、米国では既に問題視されていたりします。最近、日本国内でも倫理規定を作るべきという話が出ていたりします。
当社ではステルスマーケティングのご依頼は基本的にお断りさせていただいています。理由は2つあります。ブログライター自身が良いと感じなかったものを「良い」と書くのは長期的に見て、ライターのブランドを著しく低下させてしまうから。もう1つは、折角、秘密裏に褒めたとしても、殆ど広告効果を得られないからです。
http://web.archive.org/web/20061102082634/http://www.k-park.com/index.php?ID=38

これ、内容は6年以上前の話です。当時既に、ステルスマーケティングの概念を把握していたことに驚きを感じます。そしてなぜか、ここでも内容に猛烈な既視感を感じるのは、私だけでしょうか。
実はこの時の騒動は、炎上しただけで終わりませんでした。発端となった人気ブロガーが、驚くことに開き直ったのです。今でもそのブログの跡地が見られますので見て下さい。

「Tiara Girl編集長☆坊農さやかのブログ」
人の配置を考えたり、
文章や構成に悩んだり・・・・・
1年少しで学んだことを一冊に閉じ込めてみたので
もしよかったらぜひ読んでください♪
http://ameblo.jp/sayaka-bono/

そうなんです。彼女は末端ブロガーなどではありませんでした。ナレッジパークが発行するミニコミ誌の編集長だったのです。現役女子大生の個人ブログでありながら、同時に編集長のブログでもあったわけですね。
さぁ、そこでナレッジパークが載せた弁明を振り返ってみましょう。無償である。内容に一切関わらない。記事を書かないこともできる。ステマは効果が出ない。
いや、実に白々しい言葉の連発です。
 
バイラルマーケティングはステルスと紙一重
アメリカのWOMMA。日本で起きた5年前のステマ事件。そしてWillVii社の塚崎氏。なんかテンプレートでもあるのでしょうか? みんな同じこと言っています。
そしてその実態は、利益のためなら手段を選ばないマーケティング手法を駆使する姿です。俳優を雇って選挙活動に紛れ込むことのどこに、金賞を受賞する価値があるのか? 個人ブロガーを装いながら編集長であること隠し、弁明の言葉を出すことのどこに誠実さがあるのか? そして彼らと同じことを言いながら、「正しいバイラルマーケティング」などというものは語れるのか?
いくら「ステルスマーケティングは犯罪的」と叫んでも、バイラルマーケティングのブラックさを打ち消すことは出来ないでしょう。