コンプガチャ違法判断発表 これからどうなるか考える

5月18日、消費者庁コンプガチャに関して正式に違法判断を行いました。これによる影響はどこまで広がるのか考察してみましょう。

コンプガチャ正式に違法判断 どうなるソーシャルゲーム!?」
 
これまでそもそも“ソーシャルゲームのデジタルアイテム”は景品に当たるのかといった議論や、単純なガチャは問題がないという見解が示されたのに、コンプガチャはまぜNGなのかといった点があいまいだった。今回、“カード合わせ”を用いたコンプガチャは景表法に照らして違法という明確な判断が下ったことになる。消費者庁から配付された資料にはこのカード合わせに対して“その方法自体に欺瞞性が強く、また、子供向けの商品に用いられることが多く、子供の射幸心をあおる度合いが著しく強い”と見解が示されている。
 
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/089/89433/

これまでソーシャルゲームのアイテムは、「ソーシャルの実相 やっとゲットしたレアカードに、所有権が存在しないという真実」で書いたとおり、「所有権が存在しない」ということを前提にしてました。

「オンラインゲームガイドライン」社団法人日本オンラインゲーム協会2009年8月

前述の課金方式によりゲームのサービス利用料金、あるいはデータの限定的なサービス利用権を販売しており、データ自体の所有権につきましてはお客様にはございません。
http://d.hatena.ne.jp/tenten99/20120305/1330960987

そもそもどんな形でも所有権が無いんですから、課金ガチャでレアカードが当たったように見えても、カードの利用権が与えられるだけです。所有権が移動しないんだから、「景品としての要件も満たしていないよ」というわけですね。
今回の消費者庁の違法判断では、この辺りをどうクリアしたのでしょうか?
 
■問答無用の「景品」とぶった切る
消費者庁が5月18日に発表した見解によりますと、以下のように判断しています。

コンプガチャ」で提供されるアイテム等の景品類該当性について
有料のガチャを通じてアイテム等を提供しているオンラインゲームの場合、「コンプガチャ」によって提供されるアイテム等は、有料のガチャで得られた異なる種類の複数のアイテム等を揃えることを条件にして提供されるものであり、これは有料のガチャによってアイテム等を購入することを条件として当該アイテム等とは別のアイテム等を提供するものですから、「コンプガチャ」で提供されるアイテム等は、有料のガチャという取引に顧客を誘引するための手段として、当該取引に付随して提供されるものに当たります。
 
それによって消費者が、オンラインゲーム上で敵と戦うとか仮想空間上の部屋を飾るといった何らかの便益等の提供を受けることができるものであることから、「便益、労務その他の役務」(前記4(1)ア参照)に当たります。
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/120518premiums_1.pdf

まず顧客誘引性に関しては、非常にわかり易い内容です。
ソーシャルゲーム各社は「所有権は無いよ。あるのはガチャを回す利用権だよ」と言ってきたんですが、「その課金ガチャ利用権に誘引するためだから、コンプガチャのレアカードは景品だよね」という、文句の付けようが無い見事な切り替えしですね。
一番の問題である「経済上の利益」に関しても、「仮想空間の飾りにすることだって、利益だよ」とばっさり。さらに、実際に金額をつぎ込んでる実績にも着目し、「金払っている人がいるのは利益がある証拠だよ」と結論しました。
というわけで、景品としての要件、
1 顧客を誘引するための手段
2 自己の供給する商品又は役務の取引に附随
3 経済上の利益
は見事に満たされたわけです。まぁ、ここまで明快にやられると、もう論争の余地は無いですね。ソーシャルゲーム各社が即行でコンプガチャ停止を決めたのも、当然と言えるでしょう。むしろ今まで何でやってたんだ、って悩むレベルです。コンプガチャが「絵合わせ」かどうかについては、そのものズバリな仕組みなので、問題になりません。という訳で、コンプガチャは間違いなく違法行為であります。
問題は、ここまではっきり言われると、通常の課金ガチャだって、同じ理屈でアウトになってしまうことです。しかし消費者庁は、これを否定しました。
 
■通常課金ガチャをセーフにしたウルトラC

(ア) 有料のガチャ自体への景品規制の適用について
一般消費者は、事業者への金銭の支払いと引き換えに有料のガチャを行い、アイテム等何らかの経済上の利益の提供を受けています。つまり、有料のガチャによって一般消費者が得ている経済上の利益は、一般消費者と事業者間の取引の対象そのものであるといえます。言い換えれば、有料のガチャによる経済上の利益は、事業者が有料のガチャとは別の取引を誘引するために、当該取引に付随させて、一般消費者に提供しているものではありません(景品類指定告示第1項。前記4(1)ア参照)。
したがって、有料のガチャによって一般消費者が何らかの経済上の利益の提供を受けたとしても、それは景品表示法上の景品類には該当せず、景品表示法の景品規制は及びません。

苦しい。いや、これは苦しいでしょう。「付随じゃなくて、取引そのものだよ」という1点のみで、景品判定しませんでした。
結果がわからない通常課金ガチャで出てくるカードを、「直接取引」と判断するのは、どう考えても無理があります。だって普通の一般概念の「くじシステム」で当てた品物を、「直接取引だ」と判断しないでしょう。クジで当たったポケットティッシュは、間違いなく景品であって、直接取引ではありません。
そもそもソーシャルゲーム各社は、「ユーザーが購入しているのは、ガチャを回すサービス利用権だ」と主張していたわけです。と言うことは、その結果出てくる様々なカードは、「サービス利用権に付随する利益」となるわけで、まさしく「景品」になるじゃないですか。違いますか、消費者庁さん?
ま、ソーシャルゲーム各社が主張していた建前が、今や自分の首をギリギリ締め上げていると考えると、ちょっと笑ってしまいますけど。
 
■返還請求はできるのか?
消費者庁は、7月1日付けで『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準を改正し、以後措置命令を出すことに決定しました。遡っての適用はしないそうです。ここで注目すべきは「運用基準って何?」っていうことですね。簡単に言えば、消費者庁の「内規」です。措置命令を出す基準を、事前に明らかにしているだけで、現行法の枠内でコンプガチャが違法であることに違いはありません。ですから返還請求は当然出来ます。
コンプガチャの場合、「絵合わせに該当するか?」という点で争いは起きません。景品かどうかが問題であって、この点に関して消費者庁の出した回答は、極めて明快ですから、裁判で否定されることの方が少ないと思います。
むしろ、消費者庁が4月の段階で「ガチャを問題なし」と回答してしまったせいで、下手するとソーシャルゲーム各社から損害賠償騒ぎになりかねなかったんですね。消費者庁としては、なんとしても「ガチャは問題なし」と判断するしかなく、そっちの理屈付けに苦労したんじゃないでしょうか。当初ソーシャルゲーム各社側からの問い合わせに応じる形で、「ガチャ問題なし」宣言をしてしまいましたが、おそらく都合の悪い事実は隠してたんでしょう。消費者庁にしてみれば、ハメられた感が強かったのかもしれません。「欺瞞性が高い」とまで言及しちゃったわけで、「お前らのやってることは、詐欺行為だ」って言ってしまったのと一緒です。よっぽど腹に据えかねる何かがあったんでしょうね。
 
■グリー、DeNA側反撃を画策中か

「「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準について」の改正に関する意見募集」
意見・情報受付締切日 2012年06月18日
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=235070005&Mode=0

消費者庁パブリックコメントを募集中です。今回の決定に関して、賛成、反対の意見を送ってください。リンクだけとか、添付ファイルの送付は不可です。以下のように、ソーシャルゲーム各社も反撃を目論んでるようですから、消費者庁を応援する意味でも意見を送って欲しいと思います。

「「カード合わせ」に関する景品表示法(景品規制)上の考え方の公表を受けての対応とプラットフォーム事業者6社の取り組みについて」
6社では、5月9日に、開発、運営しているソーシャルゲームなどのサービスにおける全ての、いわゆるコンプガチャに関し、5月31日までに取り扱いを終了することを自主的に決定しました。今後は、事業者としての考え、対応について、パブリックコメント(意見公募)等を通じて意見提出することも検討していきます。
http://www.gree.co.jp/news/press/2012/0518_01.html

事業者としての考えって何を言い出す気なんでしょうか? 
今回の消費者庁の見解ですと、「課金ガチャに誘引」すると景品判定ですから、レベルアップガチャも「確率の良いガチャに誘引する」ことから、景品判定を受ける可能性があります。要するに通常課金ガチャ以外、全て景品表示法の網が掛かる可能性が出てくるわけです。これにはソーシャルゲーム各社も心中穏やかではないでしょう。
また、記者会見では、以下のようにかなり突っ込んだやり取りも明らかになっています。

「異なるアイテム等を全部そろえ集めたプレイヤーに対して、ゲーム上で使用できる別の“アイテム”の提供ではなく、キャラクターの強さなどの“ステータス”が変化する、ということであれば違法ではないのか?」という質問が飛んだが、それに対して「経済上の利益(換金可能かどうかを問わず)の提供であれば景品と見なされ違法と考えられる」という回答があった。
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/089/89433/

仮想空間の飾りだって「経済上の利益」だと言ってるんですから、ステータスの変化も当然「景品」の範疇になりますわね。これから、新たに開発されるガチャが「規制にかかるか否か」を巡って、仁義無き戦いが始まるのでしょうか? ソーシャルゲーム各社がどこまでやる気かわかりませんが、むしろこれからが本番と言えるでしょう。