「ソシャゲ」の未来 コンプガチャガイドラインでわかる各社の目論見

ソーシャルゲームで人気トップを独走していたグリーの「探検ドリランド」。不正コピー問題が発覚してから、どんどん人気を落としてしまいました。グリーのホームページでも、常に表示される左上に君臨していたのですが、ついにその場所を「聖戦ケルベロス」に譲り、右上の表示になってしまいました。左上ですと、必ず表示される指定席ですが、それ以外の場所は、アクセスタイミングで表示内容が変わります。さすがに「ドリランド」の確率は高く設定されているのですが、そこは確率。ときおり画像のとおりトップページから消えてしまうことがあります。
グリーは、少しずつ「ドリランド」から「聖戦ケルベロス」に、軸足を移しつつあるようです。
では、このままユーザーが減り続けるとどうなるのでしょうか? ある日いきなりサービスが終了する? いえいえ。今の過当競争の中でそんなことをしたら、それこそ他社にユーザーを取られてしまいます。それならどうするのか、と言うと、カードのデザインやシステムも含めて全面リニューアルするんですね。システム変更に引っかかるアイテムとかレアカードとかは使用できなくなります。引継ぎもありません。
「あれ? それってサービス終了じゃね?」
うん。そう見えますね。実は、現在の「探検ドリランド」のリニューアル前が、こんな感じだったんです。だから、また同じことが起きるだろうなぁと思います。ちなみに、ユーザーは全員自動的にそちらのゲームに再登録されますから、やめようかどうかを悩む必要はありません。当然のことながら、公式掲示板は荒れに荒れました。なにしろ直前に「お得な福袋」とか始める凶悪なことをやってたのです。買った人は、ゴミ買ったのと一緒ですよね。いや、電子データであることを考えると、ゴミすら残らないとも言えます。
しかもこれ、そんなに昔のことではありません。旧「トレジャーハンター」が「探検ドリランド」としてリニューアルされたのは、2011年5月17日。ほんの1年前の話です。ドリランドについて、今後グリーがどのような舵取りをするのか注目です。
 
■「コンプガチャガイドライン」を読み解く
5月25日、ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会は連盟で、「コンプガチャガイドライン」を策定、発表しました。今後は「ガチャのうちユーザーを過度に誘引させるようなコンプガチャに類似するもの」、「ゲーム内でのユーザーに誤解を与えないような表示方法」についても、6月中に発表する予定です。
まずは今回の発表内容を見ていきましょう。注目点は、第2条第7項です。

(7) コンプガチャ
有料ガチャアイテムを含む特定の2つ以上の異なるアイテム等を全部揃えることを条件として、ソーシャルゲーム等で使用することができる景品類たる別のアイテム等を利用者に提供する方式をいう。
なお、以下に該当するものを除く。
ア 利用者が、アイテム等の種類を選択することによりその組み合わせを完成できるもの
イ 1点、2点、5点というように、異なる点数が付与されているアイテム等を利用者に提供し、合計が一定の点数に達すると、点数に応じて利用者が新規アイテム等の提供を受けるもの
ウ 異種類のアイテム等の組み合わせではなく、利用者が、同種類のアイテム等を一定個数揃えれば新規のアイテム等の提供を受けるもの
http://www.gree.co.jp/news/press/2012/0525_02/Complete_gacha_guidelines.pdf

コンプガチャの項目に、「該当するものを除く」として具体的な事例を載せいています。
「ア 利用者が、アイテム等の種類を選択することによりその組み合わせを完成できるもの」とはなんでしょうか?
「火の属性4枚で、炎の攻撃。増えれば増えるほど強攻撃」。これに「土の属性1枚を加えると、火の玉の攻撃」といった攻撃の変化をユーザーが選ぶことを想定していると思われます。しかし実際には「この期間限定イベントの敵は『火炎旋風』が弱点である。『火炎旋風』は火の属性4枚と、土の属性1枚。さらに金の属性1枚が必要である」。この金の属性が、超レアでサッパリ出ない。結果、金の属性カードを求めて、ガチャを延々回す羽目に……、という展開になるのではないでしょうか。
また、カプコンが構築したトップブランド「モンスターハンター」の素材集めも、この範疇になると思います。「モンスターハンター」では、強い武器を手に入れるために、強いモンスターを倒し、皮とか骨とかの素材を手に入れることになります。これがユーザーのモチベーションになるわけですが、ソシャゲの場合、この素材集めがガチャになるわけですね。いやぁ、お金が吸い取られそうなゲームになりそうです。
次の「イ 1点、2点、5点というように、異なる点数が付与されているアイテム等を利用者に提供し、合計が一定の点数に達すると、点数に応じて利用者が新規アイテム等の提供を受けるもの」は、そのままの意味です。
ただ、10点の特別アイテムを得られるイベントが開催されることは、想像に難くありません。そのイベントのために、ガチャを鬼のように回す必要が出てくるんでしょうな。
最後に「異種類のアイテム等の組み合わせではなく、利用者が、同種類のアイテム等を一定個数揃えれば新規のアイテム等の提供を受けるもの」です。これも読んで字のごとく。もうイベント設定すらなく、「Aアイテム出現確立50%アップ!」とやって、ガチャを回させるつもりでしょう。
 
■「コンプガチャガイドライン」の正体
さて、このように「コンプガチャガイドライン」は、「今後ソーシャル各社がどのようにガチャを設定していくか?」が、透けて見えるものになっています。
しかし本来、ガイドラインとはこういうものではありません。「コンプガチャガイドライン」なら、「コンプガチャとは何か」がわかるガイドラインである必要があります。当たり前ですね。ガイドラインなんだから。
にもかかわらず、今回の「コンプガチャガイドライン」では、消費者庁が示した見解をそのまま書いただけで、ソーシャルゲーム各社がどのように指摘を把握し、実際のシステムのうち何をコンプガチャだと判断したのかが、全くわかりません。たとえば、「コンプガチャとは以下のものを言う。1 Aシステム 2 Bシステム 3 Cシステム 以上に類するシステムをコンプガチャとして、今後一切導入しない」という風に、「実際にコンプガチャとして判断される事例」を示さないとガイドラインとして、役に立たないわけです。
 
じゃあ、いったいこれは何の「ガイドライン」なのか? 事例で示したのは「コンプガチャに該当しないもの」です。このシステムならコンプガチャに該当しないから、導入していいよとお墨付きを与えたのですね。つまりこれは、脱法指南書、「脱法ガイドライン」です。こんなものを、堂々と発表する神経がわかりません。
その上、「コンプガチャガイドライン」の「ア」は、今後違法になりうる可能性を残しています。消費者庁の回答をもう一度確認しておきましょう。

「異なるアイテム等を全部そろえ集めたプレイヤーに対して、ゲーム上で使用できる別の“アイテム”の提供ではなく、キャラクターの強さなどの“ステータス”が変化する、ということであれば違法ではないのか?」という質問が飛んだが、それに対して「経済上の利益(換金可能かどうかを問わず)の提供であれば景品と見なされ違法と考えられる」という回答があった。

http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/089/89433/

経済上の利益の提供であれば、景品とみなされ違法となるよ、と回答しています。要するに「コンプガチャガイドライン」の「ア」は、イベントで倒せる方法が1つのアイテムだった場合、景品とみなされる可能性はあるのです。他の「イ」、「ウ」もそうですが、どこにガチャを仕込むかで、規制対象になりうるかは、変わってくるのですね。これまでのコンプガチャは、規制内容そのままのシステムでしたが、いよいよ解釈論争が始まることになります。
このままいけば、ソーシャルゲーム各社は、消費者庁と全面戦争するしかありません。にもかかわらず、本人たちに、その自覚がないように見えるのが心配です。本当に大丈夫なんでしょうか。今後発表する「コンプガチャに類するもの」や「ユーザーに誤解を与えない表示法」について、どんな発表をしてくるか楽しみに待ちましょう。