狼は来たか? 中国地方都市でマンション価格が暴落

ここ数年、バブル崩壊間近と囁かれて久しい中国経済。「狼は来たって何度言うんだよ」と揶揄されることもしばしばでした。
なぜ、危機を叫ばれつつも生き延びてきているのでしょうか? それは中国の金融機関が理財商品の償還に行き詰る度に、中国政府が資金投入してきたからですね。今年1月にデフォルト危機がありましたが、ギリギリで謎の投資家が債権を買い上げました。あんな感じで今までもフォローされてきたわけです。簡単に言うと、文字通りお金を刷って、補填していました。
 
2011年。投入された資金が市場にダブつき始め、通貨「元」の価値が急落。インフレが発生しました。2011年だけで10%超えるインフレですから、ハイパーインフレ一歩手前まで行ったわけです。極端なインフレが起こると、国民の大多数を占めている低所得者層の生活が破綻します。天安門事件どころじゃない、暴動勃発なんてことにもなりかねないわけですね。
2012年。こらマズイと思った中国政府は、金融引締めを敢行。市場の資金を回収し、インフレ率は1.6%程度まで落ち着きました。がしかし最初の問題が解決されていませんよね。中国経済は影の銀行による理財商品で金を集め、大規模公共事業を連発して維持しています。金融引締めなんてしたら、理財商品が動かず経済成長が止まってしまいます。実際2012年第4四半期の経済成長率は、7.4%と24年ぶりの低さになりました。
2013年。景気低迷により企業の赤字が増加。中国政府は金融引締めを取り止め、また資金投入。が、間に合わない企業がバタバタと破綻。資金投入によって、再度「元」の価値が低下。インフレ発生? というところで2013年後半に、また金融引締め。中国政府は「綱渡りをしている」と言うか、「混乱している」と言うか、明確な理念があって対策をしているとは思えない手法を連発しています。とにかく2013年は、なんとか乗り切りました。
というところで、2014年がやってきたわけです。
 
■またもギリギリでデフォルト回避

いきなり1月にデフォルト危機(債務不履行)があって、謎の投資家が現れて債務の買取をしたのは報道の通りです。

「中国の中誠信託、デフォルト懸念の高利回り商品めぐり投資家と合意」
中国の信託会社、中誠信託の高利回り信託商品をめぐり償還の見通しが立っていない問題で、同社は27日、投資家と合意に達したと明らかにした。ロイターが同日、投資家向け通知を入手した。中国のシャドーバンキング部門のデフォルが回避された格好だ。
http://jp.reuters.com/article/jpchina/idJPTYEA0Q05920140128

しかしまたもや別の理財商品で危機が近づいていました。第1報の後、2月19日の第5償還期でも償還されず、残すは3月11日の第6償還期を残すのみ。その額は9億7270万元(6期分、約165億円)にまで膨んでいました。
 

吉林省政府傘下の吉林省信托投資有限責任公司が発行した高利回り金融商品「理財商品」がデフォルトに陥ったことがこのほど分かった。
第4期が償還を迎えた7日になっても、投資家に払い戻しが行われていない。すでに償還日を過ぎた第1期、第2期、第3期も支払いが滞っている。この後、今月19日に第5期、3月11日に最終第6期の償還を迎える。
http://www.newsclip.be/article/2014/02/13/20766.html

 この理財商品が、2月27日の報道で、デフォルト回避となったようです。
 

「「影の銀行」のデフォルト再び回避か、吉林省信託発行の理財商品」

吉林省の信託会社、吉林省信託が発行した理財商品(高利回りの金融商品)の一部で償還が滞っていた問題で、デフォルトを回避できる見通しになったと現地メディアが27日伝えた。「影の銀行(シャドーバンキング)」の資金源となっている理財商品が破たんすれば、中国の金融システムにマイナスの影響を及ぼすと懸念されていた。
http://news.mynavi.jp/news/2014/02/28/188/

 
■そもそもシャドーバンキングって何? 
さて、そもそもなんで中国には、そんな危ない「影の銀行」がはびこっているんでしょうか?
元々は、硬直化した中国の銀行対策でした。実は中国の銀行の金利は、上限と下限が決まっているんですね。たとえば1年の定期だと上限が3%。下限はその0.7倍と決まってたんです。なので競争が起きない。
そして銀行が国有企業にしか貸さない。国有企業はそもそも破綻が無いので、投資先として安全だからです。ちなみに中国の国営企業は、日本のかつての国鉄のように生産性が低い上に、公共料金(水道、電気等)を全く払ってないという問題を抱えております。
さらに中国の地方行政は、日本で言う「地方債」の発行を許されていません。道路を作って客を呼び込み、地域を活性化させようと思っても、今現在の税収入が低いから道路も作れないなんてことが起きていたわけです。
 
これを一気に解決したのが、「影の銀行」です。
銀行にはできない高金利の商品を出して資金を集め、その資金を銀行が出さない中小銀行に投入し、地方行政が運営する投資信託会社が、公共工事の資金調達を行う。いいこと尽くめに見えたわけです。実際、中国の地方インフラは急速に整い、中小企業は成長を遂げ、ここ最近の急激な中国発展を生み出しました。
バブルに発展するまでは。
 
銀行が、儲かるシャドーバンキングに融資 ⇒ 高金利元本保証というありえない金融商品が出回り、「金融バブル」発生。
中小企業が簡単に資金調達できるため、過剰な設備投資や無理な事業計画を行う。⇒焦げ付き債権を連発させ、「不良債権」発生。
地方行政がインフラ工事を乱発(江蘇省だけで9個も空港ができて、閑古鳥が鳴いている)、周辺地価が高騰。⇒「土地バブル」発生。
歯車が狂えば、全て裏目に出るという、いい例かもしれません。
 
■同時多発するデフォルト危機
今回もデフォルト回避されましたが、問題はそれで終わりではありません。

「「影の銀行」6社に新たなデフォルト懸念」
中国の「影の銀行(シャドーバンキング)」取引のデフォルト危機で注目される経営難の石炭会社、山西聯盛能源に対し、国内の信託会社6社が総額50億元(8億2460万ドル)以上を融資していたことが分かり、新たなデフォルト懸念が浮上している。
http://toyokeizai.net/articles/-/30850

つまり同じ石炭会社に、他に6社も投資してたんですね。その金額835億円。165億円の5倍の潜在危機です。
しかもこの石炭会社が、実質的に破綻状態。潜在危機がどこかで表に出てくることは確定しております。
 

投資先の山西省の石炭採掘会社・聯盛能源集団はすでに経営不振に陥っている。昨年11月29日、山西省柳林県人民法院(裁判所)は聯盛能源集団が企業再建を申請したと発表した。同裁判所によると、同社の負債総額は約300億元(約5070億円)に達しており、債務の返還能力はほとんどなく、そのうえ工事費 や従業員の賃金、年金などもまだ支払われていないという。
http://www.epochtimes.jp/jp/2014/02/html/d48743.html

今回、担保人9社が2月末までに、計15億元を山西聯盛集団に出資することになりましたが、300億元の負債総額に対して焼け石に水状態です。 まだまだ一寸先は闇状態と言えるでしょう。
そもそも今年の償還額全体がハンパない状態なので、今年のどこかで破綻が来るのは間違いないと思われます。報道によると、元本割れ償還というものも出ているそうで、今後被害は拡大するでしょう。

「理財商品」の償還は今年にピーク期を迎えるだけに、「元本割れ」の案件は今後も増加する可能性が濃厚だ。「理財商品」の発行期間は、大部分が2〜3年で 占められる。今年各月の償還額は、1月、3月、5月、6月がそろって200億人民元を超過。うち5月は、月次ベースで今年最大の368億2700万人民元 (約6220億円)が予定されている。
http://www.newsclip.be/article/2014/02/25/20889.html

毎月デフォルト危機が叫ばれ、元本割れ連発となれば、どこかで理財商品の暴落が起こります。1月に危機があり、2月でも起きました。間違いなく3月でも4月でも起きるでしょう。そこで資金が尽きると、最大の5月に一気に崩れてしまいます。5月に全部使ってしまうと、6月でまずい。とにかくこれから先3年間は、毎月危機が叫ばれるのは間違いありません。
 
■土地バブルも崩壊へ
金融バブルと企業の破綻による不良債権拡大。そして銀行が融資を引き上げ始めると、土地バブル崩壊が現実となります。

「不動産市場の値崩れがいよいよ開始か、杭州市で国内第1陣の値引き販売に」2014年02月21日
今年に入って浙江省杭州市 で国内初となる住宅の値引き販売が実施されているもようだ。国内メディアによると、値引き物件は同市の優良物件で、値下げ幅は約10%になるという。約 12万戸の在庫を抱えている同市不動産市場の低迷が改善されていないことが値下げの背景。また、資金不足で湖北省襄陽市のデベロッパー10+ 件が建設中の物件を一時停止しているとも報じられた。
http://news.mynavi.jp/news/2014/02/21/145/

2月21日の段階で10%の値下げが報じられた浙江省杭州市。この流れが、翌週さらに拡大します。
 

「中国杭州、マンション購入者が抗議販売不振で値下げ 警察出動も」2014年2月27日
近くの別の新築マンションが値下げを実施。引きずられる形で今月19日に平均151万元(約2520万円)の物件を約2割引きで販売し始めた。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140227/chn14022717200002-n1.htm

近くのマンションが値下げをした流れに巻き込まれ、値引き幅が2割に拡大しました。
別の報道によると、抗議活動が拡大している模様です。

中国メディアによると、杭州では今年に入って同様の抗議活動が既に20件起きている。
http://www.kyoto-np.co.jp/international/article/20140227000093

バブル期はどこでも同じように、土地神話があります。中国でも土地の値段は下がったことがありませんでしたから、土地を財テクで購入するのは、非常に重視されていました。特に最近はインフレが起きているのに、銀行の金利が規制されているため、預金しても資産が目減りする一方です。市民はこぞって土地やマンションの部屋を買い求め、バブルの煽りに巻き込まれました。
それが崩壊するわけですから、抗議活動が起きるのは当然です。このまま騒ぎが拡大すれば、共産党批判につながってしまいます。しかしいくらなんでも全ての補填はできません。どこかで線引きをして、切り捨てることになりますが、一歩間違えれば大変なことになるでしょう。
 
■情報が錯綜する融資停止報道
2月24日、中国興業銀行が不動産向け融資を停止したと報道されました。

中国の興業銀行 は24日、不動産セクター向けのメザニン融資(弁済順位が低い融資)を停止したことを確認した。
不動産融資に関する新ルールを3月末までに発表するとしている。メザニン融資が同行の融資事業に占める割合は小さいという。
これに先立ち、上海証券報は、興業銀行が一部の不動産関連融資を停止したと報道。24日の中国株式市場で不動産株が急落していた。
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0LT53C20140224

中国全体の不動産への金融引締めが本格化したとして、中国株が暴落。大騒ぎになりました。慌てて中国メディアは、融資停止を一斉に否定します。
 

「中銀行、不動産向け融資の一時停止報道を相次いで否定」2014年02月27日
中国建設銀行など国有大手を含む多くの市中銀行はきのう26日、不動産向けの貸し出しを一時停止しているとの報道を否定した。不動産向けの貸出政策について、中国人民銀行中央銀行)が指示した通り実施していると強調した。
ただ、中国メディアが上場銀行16行の四半期報告などを調べたところによると、不動産向けの貸出比率は昨年7-9月期から減少しているという。
http://news.mynavi.jp/news/2014/02/27/168/

火消しは成功し、株価は元に戻りました。が、不動産向けの融資が減っているのは、統計から明らかです。融資が減れば、土地を購入する人間は減りますから、土地の価格は下落します。結局、土地バブル崩壊は止められません。

「中小都市の住宅値崩れが開始、地方政府のデフォルトは来年以降に増加も」
中小都市の住宅値崩れが始まっているもようだ。年初から国内初となる住宅の値引き販売を実施している浙江省杭州市に続き、一部の中小都市も追随していると報告された。また、中国指数研究院によると、調査対象となる100都市のうち、37都市の1月の住宅価格は前月比で下落したという。37都市のうち、34都市は中小都市だったとも報告された。
なお、審計署が発表した36地区の債務残高に関する調査報告では、21の地方政府が公有地の売却などを通じて債務を償還する計画を示したという。
http://news.mynavi.jp/news/2014/02/24/197/

地方政府の債務計画が土地の売却なんですから、土地バブルが崩壊すると、地方政府のデフォルトも起きることになります。
日本のバブル崩壊は、年初の株価暴落から、土地価格下落まで、だいたい半年かかりました。中国政府が軟着陸させられるかどうか、その手腕が問われる1年になりそうです。