閉塞する海外ゲーム市場 風穴を開けた任天堂の理念

今年のE3で、任天堂が発表したTPSゲームSplatoon」の反響が、海外で広がっています。

「E3 Video Game Preview: Splatoon」ニューヨークデイリー2014/06/16
There are plenty of gun games filled with blood and gore, plenty of titles that only the hardcore will love.
Splatoon, on the other hand, is a game that everyone and anyone can embrace.
It's everything you'd expect from a shooter from Nintendo.
血とゴア表現で満たされるたくさんの銃ゲームがあり、それらはコア層に愛されています。他方、Splatoonは、誰でも受け入れることができるゲームです。それは、あなたが期待する任天堂のシューターゲーム全てが網羅されています。)
http://www.nydailynews.com/entertainment/tv/e3-video-game-preview-splatoon-article-1.1831456

今年のE3は、血みどろの残酷描写満載のゲームで溢れかえりました。例年4、5本はそういうソフトがあったのですが、今年は20本、30本という単位でそういうゲームだったのです。
もちろん、日本のゲーマーはそういうゲームに結構慣れてきました。しかし、向こうのコアゲーマーは本当の意味で感性が違います。
頭が血を吹きながら切り落されたり、手が流血と共にちぎれたりすると、手を叩き歓声を上げて喜ぶんですね。いくら日本人は慣れていると言っても、頭や手が吹っ飛ぶ様を見て、手を叩いて喜ぶほど面白いかというと、そうではありません。もしそういう人が居ても、ちょっと精神的におかしい人だと、思われてしまうでしょう。
 
そんなE3に、任天堂がペンキを塗って戦うTPSゲームを発表しました。
極端な残酷描写を、そんなに「面白い」と感じない日本で、人気が出るのはわかります。ところが海外でも、それまでの残酷描写一直線の流れに対するカウンターパンチとして、Splatoonを報道し始めんたんですね。
 
■シューターというジャンルは進化した! 世界から絶賛されるSplatoon

「E3 2014: Sunset Overdrive, Splatoon And The Stubborn Evolution Of Gaming's Most Boring Genre」フォーブス誌 2014/06/13
(サンセット:オーバードライブとSplatoon、ゲームの最も頑固で退屈なジャンルの進化)
Sunset Overdrive is a reminder of how predominant this style of play has been over the last two decades, while the announcement of Nintendo’s modest variant makes it hard to forgive the brutal conservatism that has kept the genre mostly stuck in place.
Sunset Overdriveは、このスタイルのプレーがここ20年の間どれくらい支配的であるかに関して、思い出させるものです。ジャンルのテンプレートを適所に張り付ける、残忍な保守主義を許すことは、任天堂の控え目ながら、特異な発表で困難になります。)

http://www.forbes.com/sites/michaelthomsen/2014/06/13/e3-2014-sunset-overdrive-splatoon-and-the-stubborn-evolution-of-gamings-most-boring-genre/

経済誌の巨人「フォーブス」にボコボコにされている「サンセット:オーバードライブ」は、おそらくSplatoonが出てなければ、TPSの新機軸として注目された作品になったでしょう。
悲壮感無く、明るくPOPに、ゾンビをブチ殺していくこのゲームは、血みどろ一辺倒のゲームジャンルに一石を投じることになったはずです。が、結局のところ「ゾンビをカチ割っていくゲーム」には違いありません。
アメリカを中心とする海外ゲーム市場が、如何に残酷描写の「ナルシシズム」に犯され、「工業化製品」のように、ゲームが開発されているか、フォーブスは痛烈に批判しています。
 

「ああ! 存在しないぞ! 任天堂のアクションを備えたシューターは、他にはない種類だ!」4players(ドイツ)
http://www.4players.de/4players.php/dispbericht/Wii_U/Vorschau/35848/80567/0/Splatoon.html

Splatoonは、今年一番オリジナルなゲームである」canada.com(カナダ)
http://o.canada.com/technology/gaming/splatoon-hands-on-e3-preview-the-most-original-nintendo-game-in-years

Splatoon」は、恐ろしく創造性のあるゲームプレイをペイントボールで実現しました」20minutes(フランス)
http://www.20minutes.fr/high-tech/1398266-e3-splatoon-la-surprise-tres-fun-de-nintendo

「オンライン・マルチプレーヤーシューター」と聞けば、必ず顔や首を突き刺されることをイメージするでしょう。しかし任天堂がオンラインシューターを作るなら、みんな市場と違うものを期待するでしょう。まさにSplatoonが、それです」 International Business Times(UK)
http://www.ibtimes.co.uk/e3-2014-game-show-splatoon-1452560

技術は進歩しましたが、その表現はなぜか血生臭い描写に偏っています。それこそ、インクのように閉塞感が海外でも沈殿していたのでしょう。Splatoonは、その壁を壊したとして、世界から注目を浴びています。
 
Splatoonを生んだ任天堂の例の理念
世界から注目されたSplatoonですが、FPSファーストパーソンシューティング)やTPS(サードパーソンシューティング)の世界で、ペイント弾を使ったゲームは、珍しいものではありません。ゲームモードの一つとしてペイント弾モードを備えたゲームは、昔からあったのですが、大して面白くなかったので広まりませんでした。
また、陣取りゲームも、RTSリアルタイムストラテジー)と言われるジャンルとして古くからあります。今はパソコンゲームで、細々と作られるだけですが。
そうした古くからありつつも、もう古くなったり、人気の無い技術を、TPSに再構成して落とし込んだのが、Splatoonです。なんか聞いたことありますよね。
 
そう、任天堂の理念、「枯れた技術の水平思考」こそ、Splatoonを生み出した原動力でしょう。古くなった技術を再構成して新しいものを作り出した結果、一面では過去に存在した要素ながら、総体としては全く新しい「ジャンル」とすら呼ばれるもが出来上がったのです。
 
■やられたらどうなる? 「のしイカ」になって飛んで帰る

なんのこっちゃと思うかもしれませんが、Splatoonではやられると、敵のインクをまき散らして消滅します。
でも、よくよく紹介動画を見ていて、ただ消滅していないことに気がつきました。
左の画像は、紹介動画の中で、狙撃されてやられた直後の画像です。左上の丸で囲った部分。この飛んでるのが、「のしイカ」状態になったキャラクターです。
どうもやられると、この姿になって、スタート地点まで飛んで帰るようですね。紹介動画を確認しますと、やられ方によって違う形で、ふわっと飛んでいます。一瞬しか出ないものを、わざわざプログラムを書いて作ってるようです。

この無駄に凝った努力のお陰で、たとえ子供に「イカさん、死んじゃったの?」と聞かれても「のしイカになって戻ったんだよ」と答えることができるわけです。
しかし、そうすると、この「のしイカ」状態が、彼らの本当の姿なのでしょうか? 謎は深まるばかりです。