中国の本当の狙いは海洋進出ではなく西進か 専門家が指摘する「日本の孤立危機」とは

2014年にシャドーバンキングの過去最大の償還期を迎えた中国。そのほとんどを借換えで乗り切りました。が、借換えは危機を先延ばししただけです。その証拠に正月早々デフォルトが報道されています。

「中国の不動産開発会社、佳兆業集団がデフォルト」2015年 1月 3日
中国の不動産開発事業者、佳兆業集団(カイサ・グループ・ホールディングス)が、英金融大手HSBCホールディングスからの融資でデフォルト(債務不履行)した。佳兆業は経営幹部が相次ぎ辞任するなど苦境に立たされており、他の債務も返済できない恐れがあると示唆した。

http://jp.wsj.com/articles/SB12659516568778773425604580375872074004244

イギリスの金融会社の資金をデフォルトさせたことが、世界に報道されるというのは非常に異例です。下手をすると他の国の金融会社の資金が一斉に引き揚げにかかる可能性があるわけで、おそらく中国政府が補てんすることになるんでしょう。
こうした経済破綻の軟着陸への試練が続く中国ですが、一方、バブルで手に入れた資金を明日への投資にしようとする試みも行っています。
それが「新シルクロード構想」ですね。
 
 
■中国の狙いは海洋進出ではなく陸路か

「世界最長? 中国−スペイン間を結ぶ貨物輸送路」
アジアと欧州間の陸路での貨物輸送を緊密化しようとする中国の計画、新シルクロード構想の一部として、中国の義烏からスペインのマドリードまでを結ぶ鉄道 が開通しました。その路線はかつて世界最長の鉄道だったシベリア横断鉄道の5,772マイル(9,289km)よりも長く、距離にして6,200マイル (9,977km)になります。
http://www.excite.co.jp/News/it_g/20141125/Gizmodo_201411_post_15988.html

2014年11月に開通した、中国とスペインをロシア経由で結ぶ横断列車。これがバリバリ動き出すと、ヨーロッパ、ロシア、中国を結ぶ大経済圏が出来上がります。貨物専用とはいえ、本当にレールを通してしまったんですから、大したものです。
 
中国が海洋進出で周辺各国と摩擦を起こしているのは、ご存じのとおりです。このまま中国が進出を続ければ、遅かれ早かれ武力衝突になります。その場合、世界各国は経緯からみて、反中国に固まると思われます。はっきり言って海洋進出は、中国にとってリスクの高いものだと言えるでしょう。
そこで中国が新たに着手したのが、陸路でユーラシア大陸を横断してしまう荒業なんですね。
この「新シルクロード構想」が、日本の孤立危機を招くという分析が出てきました。いったい何が起こるのか、詳しく見てみましょう。

「「アジアの盟主」狙う驚愕の投資戦略、東南アジア・インドなど23カ国がなびく―日本は「孤立」の危機か?」
中国がアジアのインフラ整備に乗り出す。14年11月、北京でのAPECで、中国政府は「一帯一路」構想をぶち上げた。「一帯一路」は、インフラ整備で海 と陸の両方のシルクロードと経済圏を構築するという構想である。
中国は、西に延びる「海と陸の新シルクロード」を提唱し、関係各国と道路、鉄道、港湾の整備を進め ている。20を超える国と地域をこの計画に巻き込もうとしており、既に個別に交渉を進めている。
 

http://www.recordchina.co.jp/a100032.html

しかもこの「新シルクロ−ド構想」が、中国の主導する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」に、23か国も賛同した理由だというのです。
 

急成長するアジアでは、経済成長を支えるために、毎年少なくとも7500億ドル(約95兆円)に上るインフラ投資が必要とされている。このニーズを狙っ て、中国が主導したのがアジアインフラ投資銀行(AIIB)だ。
この投資銀行には、東南アジア10カ国、インドをはじめ23カ国の参加が既に決まっている。南シナ海で中国と対立するフィリピン、ベトナムも加 わっている。アジア専門家によると、深刻なインフラ資金不足にあえぐアジア諸国にとって、立ち遅れたインフラ整備を支援するという、中国の提案を拒否する 理由は見当たらないという。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)」を、アメリカが言う「既存の国際金融秩序への挑戦」という見方だけでは、計れないというわけですね。
極東日本にとって、西へと延びる経済圏に関われないことは、新たな経済リスクとなる可能性があります。地理的な意味でも、経済的な意味でも、文字通り東の端っこで孤立してしまうわけです。
 
しかし、私はこの専門家が叫ぶように、「日本が孤立する」から、「日本のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加」を、もう一度検討すべきだとは思いません。
アジアインフラ投資銀行(AIIB)」はその成り立ちも、運営形態も、中国の国益のエンジンとして動く可能性があるからです。参加した各国は、いつの間にか中国に中間マージンを吸い上げられる植民地になってしまうかもしれません。
中国が新興国にアピールした「新シルクロード構想」は、警戒すべきでしょう。夢物語な面も多分にありますが、線路をスペインまで通してしまった実績を見れば、無視するわけにもいかないのも事実です。だからこそ、この新たなうねりに対応するための、新しい戦略が必要なのですね。

 
■鍵はロシア 北方領土は『香港方式』で解決へ
では、どうするか。私はロシアとの連携が打開策だと考えます。

「海と陸の「シルクロード経済圏」への野望―中国が描く新アジア地図はすべての道が北京に通じる!?」
現在、世界貿易の8割は海上輸送が使われているが、鉄道輸送は海上輸送や空輸に比べ速度や環境面で優位性が高い。ところが欧州と中国の鉄道のレール幅がロ シアのものと異なるため、中国から欧州へ貨物を運ぶ際に何度も積み降ろしを行わなければならず、多くの日数を要する。また、各路線に精通した運転手による 走行を確保するために、運転手は各国境で交代となる。
このため中国政府はシルクロード沿いに新たな鉄道の建設を計画。既にシルクロード沿いの各国と新たな鉄道建設に関する交渉を進めており、高速列車 を採用する可能性があるという。この鉄道建設プロジェクトは中国政府が担当、鉄道建設と引き換えに資源を獲得する方法を採用し、中国では新たな鉄道会社を 新設して経営管理を行う可能性もある。

http://www.recordchina.co.jp/a99989.html

横断鉄道は、21日かけて貨物を運搬するんですが、ロシアの線路規格が合わないため、予想以上に効率が上がっていません。だから、既にロシアを排除した動きを中国が始めているのです。
BRICs」に参加したロシアも、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」には参加していません。まぁ、あからさまなロシアはずしを見せつけられたわけですから、中国を警戒するのも当然でしょう。

また、横断鉄道で欧州での中国の存在価値が高まれば、ロシアの存在価値は相対的に下がることは間違いない無く、中国を「経済的ライバル」と看做すのも時間の問題と思われます。

日本にとって、このロシアと中国の関係の揺れは、千載一遇のチャンスです。今後の中国の台頭を考えれば、ロシアとの関係改善は、必ず必要になる外交要件と言えます。なんとか関係改善しなければなりません。
 
 

そこで障害となっているのが、北方領土の解決です。

日本共産党だって「北方領土は日本の領土だ」と言っているくらいですから、国内のコンセンサスに問題ありません。つまり課題は、「ロシアとの落とし所をどうするか」に絞られます。

では、どのように課題をクリアすればいいのでしょうか?

私は、イギリスと中国が結んだ『香港方式』が打開策となりえると思います。

要するに、「北方領土の日本領土を認め、99年後に返還する」とロシアと協定を結ぶのです。現在、北方領土には、もう半世紀以上その地で暮らすロシア人がいます。たとえ北方領土が返還されたとしても、彼らに「さあ出てけ」と言うわけにはいきません。

どうやったって、解決には何十年もかかるのですから、だったら最初から所有権だけ確認して、あとはじっくり返還への準備を整えていく方が、ロシアも日本の要求を飲みやすいのではないでしょうか。

 

北方領土経済特区

ロシアにとって、北方領土は地理的にそこまで重要な土地ではありません。極東のさらにその先の小さな島々ですから、もともと資金投入できる場所ではないわけです。

そこで、ロシアと協定を結び、経済特区としてインフラ整備も含めた資金の投入を日本が行うことを提案するのです。ロシアは、日本の金で整備ができてウマウマ。日本は、来る領土返還を睨んで先行投資ができてウマウマ。両国ウインウインの関係が築けるでしょう。
 
また、ロシアは過去の経緯から、アメリカを信用していません。ですから日本は、単純にアメリカの代弁者としてでは、ロシアと良好な関係を築くことができないのです。

状況によっては、アメリカと別の選択を取る必要が出てくることもあるでしょう。対中国という外交的観点から、日本は「韓国のなんちゃってバランサー」ではなく、本当のバランサーとしての立場へ、大きく踏み出すことになると思います。

北方領土返還は、「返還されて終わり」ではなく、それをダシに「ロシアとの対中国陣営の構築を目指す」くらいの大局的視点で解決を目指し、対中国戦線にロシアを引きずり込むぐらいの構想が必要でしょう。
中国の掲げる新たな戦略に、日本の脱皮も迫られています。