「BABYMETALって何?」 レッチリ帯同ニュースでアンテナに引っかかった人が知るべき情報

日本のアイドルが、レッチリのツアーゲスト? ようやくアンテナに引っかかった筆者も含めて、ついに「BABYMETAL旋風」のニュースを把握した人も多いはず。いったい何が起きているのでしょうか。
 

「ベビメタ、レッチリ英国ツアー特別ゲスト 4都市7公演に参加」

女性3人組ユニット「BABYMETAL」が、米ロックバンド「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」が12月に開く英国ツアーに特別ゲストとして出演する。レッチリが「一緒にツアーを回りたい」とオファーし、ロンドンなど4都市7公演に参加することが決定。

http://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2016/08/27/kiji/K20160827013242710.html

筆者も含めてメタルに思い入れがない人でも、さすがにレッチリことレッドホットチリペッパーズは知っているでしょう。特にライブの度に自らの曲をアレンジしていくスタイルは、ライブ至上主義と言われ絶賛されました。まぁ、ライブ画像を検索すると、全裸になってるものばっかり出てきますけど。

さて、そんなレッチリが、日本のアイドルを帯同させると言う。ちらちら聞こえていたBABYMETALとは、ニルヴァーナに気に入られた少年ナイフと同じなのでしょうか?

 

■「BABYMETALはメタルを破壊した」
BABYMETALは、元々「さくら学院」というアイドルグループの活動の一部でした。「部活動」という位置づけの通り、あくまで傍流的なものだったようです。なにしろデビュー当時、ボーカルのSU-METALこと、中元すず香はまだ13歳。メタルを本気でやるには、無理のある年齢です。

風向きが変わったのは、活動開始3年目の2012年。それまではシングルCDの音に合わせて歌って踊るライブだったのが、生演奏になったのです。この時、演奏したのが海外バンドのバック演奏を務めているなど、実力者ばかりだったのですね。

それまであくまでも「メタル風」だったライブが、この人たちが「俺たちがメタルを教えてやんよ!」とばかりに、ギャンギャン始めたせいで、突如演奏クオリティが上がりました。
これで終わってれば、「後ろもったいなさ過ぎ」「前3人いらないから、後ろだけでやってくれ」って言われて静かに消えてったはずなんですが、ここでボーカルのSU-METALがモリモリ覚醒し始めます。メタルの圧倒的重低音に負けない声量。そしてほとんど音程をはずさないテクニック。15歳にして才能が開花。なんか漫画のキャラクターみたいな話です。元々声質が癖の無いハイトーンでライブ栄えしそうだったらしいのですが、まさか本当にメタルの爆音を貫いて歌えるレベルだとは、本人も予想外だったでしょう。

海外には、最初の「ド・キ・ド・キ☆モーニング」から、密かに話題になっていたようですが、PVを聞いてわかる通りフツーのアイドル曲です。メタルの味付けなんて薄い薄い。次の「いいね!」も途中で突然ラップに変わるなど、「メタル風」の雰囲気が抜けてません。海外の反応も「J-POPの新人」的反応が多かったようです。
そこから爆発的に人気が高めることになったのが、2014年「ギミチョコ!!」のPVがYoutubeにアップされてから。圧倒的な視聴回数を呼び、現時点で5800万回を突破してます。そしてこのPVがガガ様の目に留まり、ツアーに呼ばれるわけですが、そこで衝撃の事実が。

@ladygaga
they are so killer. And lead singer can really sing it's very unexpected and the music is authentic I'm a fan
(彼らは、確かにキラーだった。そして、リードシンガーは本当に歌う事ができたの。とっても意外だったわ。あと音楽も本物なの。私はファンになったわ)

12:33 AM - 4 Aug 2014

ガガ様は、本当に歌ってること知らなかった。ファンが撮ったこの時の映像がありますが、ダンスを真似てノリノリだったガガ様が、途中からキョトンとしてる姿が映ってます。逆に言えば、この頃はまだ、ホントに歌えるかどうかすら知らない人も多かったということですね。
当然のことながらメタルフリーク達の評価は、真っ二つ。海外も含めて猛烈なバッシングも行われました。というか、今でも激烈な議論が続いてます。アメリカやイギリスやドイツのフォーラムを覗いてみましたが、凄い凄い。履歴を辿ると、もう何年も延々議論が続いてる。
「こんなものはメタルじゃない!」「昔メタルは『こんなものがロックか!』って言われてた。今お前はその時のジジイどもと一緒だ!」
こんな議論がずーっと続いてる。もちろん業界雑誌でも賛否両論。

ヘビーメタルに詳しいキム・ケリー氏は、「BABYMETAL」がメタルの名を語ることは大問題だ、と憤る。
同氏は、「BABYMETAL」は作られたポップ・アイドル・グループで、プロデューサーが新しいガールズ・バンドのテーマとして「メタル」に決めただけだと批判。楽器も弾けず、グループ結成までヘビメタを聞いたことがなかった彼女らの存在は、「サブカルチャーと、多くの人が真面目に愛する音楽に対する侮辱である」と手厳しい。
http://newsphere.jp/entertainment/20141108-1/

中学1年の少女がメタルをガンガン聞きまくって一家言持ってたら、それはそれで闇が深かろうと思いますが。
まぁ、突然アイドルが「これが新しいメタルよ」って言って土足でドカドカ入ってきたら、拒否反応を起こすのも当然と言えるでしょう。なにしろ彼女達は、ライブの最中にニコニコ笑ってるんですね。メタルに限らずハードロックでもパンクでもメロコアでも、ライブ中に嬉しそうに笑ってるバンドなんて、見たことも聞いたことも無いですよ。それにメタルやパンク界隈には、ダンスがありませんでした。だって自分たちで演奏してるから、踊れる訳がない。
「ライブ中に何ヘラヘラ踊ってんだ、バカにしてんのか!」って思う人は当然いるでしょうし、いわゆる「一発屋」のように、ポンと出て、そのまま消えてれば、いろんな意味で平和だったはずです。

「BABYMETALほどメタル界を破壊したバンドはいない」
英エンターテイメントサイト『List』のライター、マット・エバンズ
http://newsphere.jp/entertainment/20160407-1/

ここまで来ると、「おや?」って思うはず。私もそうでした。5000万ビュー稼ぐのも、ガガ様から声が掛かるのも、滅多に無いけれど「奇跡」と言うほどのことではありません。しかし、「メタル界を破壊した」となると、1曲2曲当たった程度では起きない異常事態であります。いったいBABYMETALは、何をしたのか?
 
■流れを変えた Sonisphere Festival 2014

イギリスで2014年に行われた「Sonisphere Festival」。メタルバンド大集合なイベントで、BABYMETALはメインステージに登りました。観客数は驚きの6万7000人。サッカーの暴力集団「フーリガン」もイギリスから出てきたように、向こうのメタルファンは、切れると問答無用でペットボトルなどを投擲してきます。6万人もいたら、一度崩れた雰囲気は元に戻りません。しかも向こうのメタルファンとかは肩幅も広くてフツーにデカい。全身タトゥーにスキンヘッドなんて連中もウジャウジャいます。そんな連中が、野太い声で「ウォオオオオ!」って叫ぶから、圧力がモノ凄い。
貼り付けた動画の2分50秒程度、2番に入るところで、実はボーカルの声がスピーカーから一瞬出ませんでした。バックのギターの音が聞こえるのに、声だけ出ていないということは、「録音の口パク」ではないということです。それに気付いた会場のファンが「ウォオオオオ!」って叫んでる声が入っています。一瞬で気付くなんて、連中はどんだけライブ慣れしてんですかね。
そんな中、平然とパフォーマンスを行い、「See You!」といって颯爽と去っていく姿は圧巻です。単純に「アイドル」なんて枠ではくくれません。実はレッチリと同じく、ライブで真価を発揮するのが、BABYMETALなのです。
  
なんだかんだ言っても、メタルが出てから30年。死と暴力のイメージは大いなるマンネリへと落ち込んでいました。そこへ「イジメ、ダメ、ゼッタイ」なんて真逆の歌詞をテライなく歌い、ニコニコしながら会場を巻き込むBABYMETALが出てきたのです。ハンドサインのデビルズホーンを、フォックスホーンに変えてしまったり、スピード感がありながらもメタルでダンスしてしまうなど、ことごとく従来のお約束を破壊しながら、バックバンドは正統派メタルのスタイルを真面目に継承し、ボーカルは声量とテクニックでねじ伏せています。メタルじゃないのにメタル。BABYMETALの音楽を、どう表現すればいいのか。
当初「音楽に対する侮辱」とまで言っていたのに、最後には「3人を養女にしたい!」なんて転向してしまったキム・ケリー女史のコラムに、その答えがありました。

「How I Learned to Stop Worrying and Love Babymetal」
http://noisey.vice.com/blog/babymetal-interview-2016/

「Japanese pop-metal」。まさに言いえて妙であります。
「いや、ポップだったらメタルじゃないだろ」。うん、その通り。私もそう思います。本来、水と油のように決して混ざらないものが、メタルとポップだったはずです。でも、どんなに「あり得ない」と言っても、目の前にこうして存在するんだから、仕方が無い。
メタルの概念を木っ端微塵にしたBABYMETALは、今度はメタル界隈を飛び出し、レッチリ帯同ニュースと共に、ロック界全体に旋風を広げようとしています。
 
■それでも残る「一発屋」の危険

2010年のデビューから考えると、もう6年になる活動期間とはいえ、「ギミチョコ!」のPVからは、まだ2年経ってません。むしろこれから飽きた人が離れていく時期です。そしてレッチリニュースでBABYMETALを知った人間は、まだ1ヶ月にもなりません。
これから先、人気が根付くには、さらに2年以上走り続けることが必要でしょう。PVの5800万ビューも、本当に世界的な人気なら、この10倍の視聴回数を稼ぐのが普通です。
そして、メタルだろうがハードロックだろうが、見渡せばわかる問題。「白人ばかり」。「黒人パンクバンドが、ウェンブリーに降臨!」なんてニュースは、1度として存在しないのです。これからロック界隈の人間が、続々とBABYMETALに注目すれば、必ず障害となって、ぶつかることになるはずです。そういう意味では、既にウェンブリーで結果を出してしまったBABYMETALは、極めて異例な成功と言えるでしょう。
また、全米アルバムチャートは39位まで行きましたが、日本製ヘビメタの先輩「ラウドネス」は、24週に渡って200位圏内にランクインしていました。

トップ40入りとやたら騒がれた全米チャートでも、初登場39位から翌週は159位へと急降下、3週目には200位圏外へ消えてしまったBABYMETAL。
http://www.asagei.com/excerpt/57542

典型的な一発屋のチャート動向ですね。ビートルズローリングストーンが出てきたように、イギリスなど欧州は新しいものに寛容です。対してアメリカは遥かに保守的です。そのアメリカをどう攻略していくかが、これから挑戦となるでしょう。
まずは、マディソン・スクエア・ガーデンでの単独ライブ。コーチェラ・フェスティバルにも出場し、そしてやはりウッドストックに参戦してこそ、アメリカ攻略というものです。(2019年は50周年だからやるはず、たぶん) そのためにも2019年までに、できるだけ経験値を溜めておかないといけません。
ポップメタルと言う新たなジャンルの伝道師となれるのか。BABYMETALはこれからも挑戦者として、世界に羽ばたいて欲しいですね。
(画像は全てSonisphere Festival 2014オフィシャル動画より)
 
◆追記
先ほど検索してて、メロコアの雄Offspringが、BABYMETALに言及してる動画を発見しました。
https://youtu.be/8zEq13Z07so?t=170
2:50くらいから質問に答えているんですが、「動画見たよ。クレイジーだね」程度で軽く笑って済ませてしまっています。日本に来るたびに、ライブで必ず「スパイスガールは商業主義の糞だ」と盛大にディスるのが定番だった彼らですが、まだ撮影時点2014年では、BABYMETALを本気でコメントするまでの威力はないということなんでしょうか。