<ラオスダム決壊>日本責任論&天災責任論に反論してみる

23日で発生から一か月になるラオスのダム決壊。雨季まっただ中のラオスでは、さらに台風が直撃して大変なことになっています。

台風16号がもたらした大雨のため、ラオスと国境を接する北部ナン県では8月18日、県庁所在地のムアン郡を含む7郡が深刻な洪水に見舞われた。ムアン郡では水かさが約50センチに達した。

https://www.bangkokshuho.com/single-post/2018/08/20/thaisociety3

南に進路を向けたため、日本には全く関係なかった台風16号ですが、ラオスベトナムとの国境付近に上陸しました。大林組がまさにダム建設している辺りです。特に、建設中のダムが破損したといったニュースは入ってきてないので、大丈夫だったようですね。
さて、決壊したダムの方は、まだ情報が錯綜しています。雨季のせいもあってか、毎日どっか洪水が起きたというニュースが報じられていて、事態の収拾以前に、とにかく今夏の雨季を乗り切るしかない状況です。

ラオス・ダム決壊、韓国企業に「責任問題」浮上 韓国職員は全員無事避難」

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180727/soc1807270010-n1.html


この完成予想図を見ると、全然放流のコントロールができそうにない構造のダムなんですね。このダムは補助ダムでして、発電施設やら水門やらがあるメインダムは別の場所にあります。ですからこの補助ダムが越流(ダムを水が乗り越える現象)する前に、メインダムの方で緊急放流して、水位を下げる必要がありました。でないと、アスファルトから浸透した水や、アスファルトと土の境に入り込んだ水が、どんどん土を削り取って補助ダム自身が沈下。やがて大規模な決壊につながってしまいます。と言うか、そうなりました。

ラオス決壊は土のダムで越流させた設計と管理ミス」
聯合ニュースは幅770メートル、高さ25メートルとしています。これに対してメインダムは高さ73.7メートル、堰堤1.6キロ、粘土をコアにした石積みによるアースフィルダムとされます。
貯水池の水位は何処でもほぼ同じですから、弱い補助ダムを越流させるような全体設計が間違っていると指摘せざるを得ません。補助ダムの堤防はもっと高くなるべきでした。
ひょっとすると越流の恐ろしさを認識していなかった可能性すらあります。
https://news.yahoo.co.jp/byline/dandoyasuharu/20180801-00091429/

いろいろ調べると、設計・施工は全て韓国のSK建設が請け負っていたようです。そこからさらに下請に投げられているようですが。なので、決壊した以上、ラオス政府も設計、施工した韓国の建設会社に責任を求めているわけです。日本の責任論なんて出る余地が全く無いですね。しかしそうは考えない人たちがいるのです。

 

■ダム決壊には日本にも責任?

「建設中に決壊したラオスのダムは、日本の資金によるものだった――韓国叩きに終始するメディアが報じるべきこと」(2018.08.21)

「事業が行われる現地の人々の安全や権利を軽視した性急なダム開発が、今回の決壊事故につながった」と木口さんは見ている。そして、ラオスがダム開発をその経済成長戦略の柱とした背景には、日本の影響も色濃くあるというのだ。

「今回の悲惨な事故に多くの人びとを巻き込んだのは、一義的には関連企業の責任です。しかし、企業のダム建設を可能にした融資機関、さらには大規模ダム建設に依存するラオス政府の開発政策とそれを後押ししてきた援助国・融資機関の役割についても検証する必要があります」という。

https://hbol.jp/173229

そんな無茶な。
投資した銀行の一つが、日本資本のものだったというだけの話で、そこから日本責任論をぶち上げるのは我田引水もいい所でしょう。まるで100パーセント日本資金で建造されたかのような誤解を生む表現は、逆に事実を歪めています。
しかも「日本の影響も色濃くある」と書いてるのは筆者だけで、インタビューでそこまでの発言は出てきません。「一義的には関連企業の責任です」とすら言っています。
ラオス政府が電力事業を急ぐあまり、「実績もないのに工期を短縮させるような韓国企業に発注した責任は重い」と言うなら理解できますが、ことさら日本の責任に言及するのはバイアスがかかり過ぎではないでしょうか?
ダムが決壊するぐらいなら、普通は緊急放流を行ってダムを守ります。日本でも問題になりましたが、放流すると途端に水かさが増しますので、周知が必要です。しかし今回のラオスの場合は、「緊急放流に下流の住民がまき込まれた」ではなく、「補助ダムが決壊した」なのですから、ラオス政府や日本ではなく、施工管理していた韓国SK建設の責任は明らかなのです。

 

■韓国本国の論調は、天災責任論

ラオス政府「ダム決壊は欠陥工事による人災…特別補償を」 韓国建設企業に向けて?」中央日報(2018年08月02日)
しかし施工を担当したSK建設はダムの事故が発生する前の10日間に1000ミリ以上の雨が降っただけに豪雨による「天災地変」とみている。
http://japanese.joins.com/article/681/243681.html?servcode=300§code=300

韓国での報道はほとんどこの天災責任論です。「10日に1000ミリの豪雨はどんなダムでも決壊するに決まってる!」といった感じです。
しかし、10日間で1000ミリってことは、1日換算で100ミリです。少ないとは言いませんが、どんなダムも決壊するほどではありません。たとえば今年7月に起きた西日本豪雨災害。各地で観測記録更新のオンパレードで、実際に河川氾濫の被害も多大でしたが、ダムは決壊しませんでした。

「4県15地点で総雨量1000ミリ超える」毎日新聞2018年7月9日
https://mainichi.jp/articles/20180709/k00/00e/040/165000c

高知県3日間で1000mm超の大雨」(2018.7.06)
徳島県との県境付近の馬路村魚梁瀬は24時間雨量が600mmを突破。3日間で1000mmを超える大雨となっています。
https://weathernews.jp/s/topics/201807/060055/

高知なんか、今回のラオスの半分以下、3日で1000ミリ超えです。24時間で600mm突破。観測記録最大ってことは、想定外の雨が降ったということですね。しかし、意外にも高知の被害はそれほど大きくありませんでした。

西日本豪雨で最も雨が降った高知県で被害が小さかった理由とは?」
高知県は、1998年の豪雨災害や1976年の台風17号による災害など、過去に豪雨やそれに伴う土砂災害で被害を受けてきました。そういったこともあり、大雨時の排水能力の向上や河川の改修など治水対策に長年取り組んできました。また、台風被害の多い県なので、県民の防災意識が高いことも大きいと思われます」
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201807/0011451902.shtml

ま、要するに慣れだって言ってるんですけど、そんなこと言ったらラオスだって雨季にはガンガン雨が降るわけで、韓国SK建設の「1000ミリ降ってびっくり」みたいな回答は、通らないわけです。
それよりも、「ダム決壊前日に438ミリの雨が降った」とSK建設が報告していたそうなんですが、

ラオスのダム決壊、韓国企業「ラオス政府や住民の意識の低さが被害拡大の原因」―韓国メディア」2018年8月1日
決壊が発生したもう一つの理由としてSK建設は連日の豪雨の発生を指摘。事故発生時の10日間積算雨量が1000ミリを超え、事故の前日だけで438ミリの雨が降ったと報告している。
https://www.recordchina.co.jp/b629699-s0-c30-d0135.html

以下のサイトで公開されているラオスの天気の記録を見ると、雨どころか晴れてるんですけど、本当に雨は降ったんですかね?

「Past Weather in Vientiane, Laos — July 2018」
https://www.timeanddate.com/weather/laos/vientiane/historic?month=7&year=2018

降ったにしても、400ミリでダムが決壊してしまう理由には、ならないと思いますが。
 
いずれにしろ、日本責任論&天災責任論のどちらにも、ダム決壊の責任を押し付けるのは難しいと考えます。韓国は企業も政府も、正しく責任を認識して、ラオスに補償をしていって欲しいですね。