この中国の対応はアリなの? もう「株価対策」じゃなくて「市場操縦」でしょ

つい先週に暴落した中国株価が、また上昇を始めております。 しかし一時は全上場企業の6割近い約1600社が取引停止。話題を呼びました。

 

■株式の基本が存在しない市場だった中国

7月15日の時点で、700社ほどが取引を再開した中国市場。これはつまり、企業が任意に自分から株式の取引停止を宣言でき、そして何のペナルティもなくまた任意で再開できるということです。

凄い話です。これはたとえば東芝が、粉飾を報道されても、「中国の暴落に巻き込まれて必要以上に株価が下がるのは面白くない」と、「経営上の重大事項の発生」を宣言をして取引停止。世論の動向見ながら対応策を発表して、鎮静化を確認したら、おもむろに取引を再開できるということになります。そんなアホな。

株式とは、投資家が自由に自分の責任で投資できる権利を持つと同時に、自由に自分の責任で売払う権利も持っています。企業の都合で取引を制限できるなんて、これでは投資じゃなくて寄付ですよ。

企業が投資家の金を「お小遣い」程度にしか認識してないとすると、そもそも株主と会社は、対等な関係として成立していません。これを「市場」と呼ぶことすら難しいでしょう。

 

■「悪質」と判断されると摘発されちゃう?

「中国、「悪意ある空売り」摘発 株価押し上げへ積極介入」

10日午前、公安省の孟慶豊次官が率いる株式空売りの調査チームが上海に到着した。同チームは株価指数先物を使って相場操縦をしていた疑いで、上海の貿易会社を捜索した。中国メディアによると、これまでに約10件が調査の対象となっているという。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM13H6W_T10C15A7EA1000/

空売り」が相場操縦に使われるのはその通りです。これを客観的に「悪質」だと判定できるなら、世界中の市場が導入すべきだと思いますね。過度なマネーゲームは、その国の経済と企業の体力を奪う存在ですから。

しかしそれが「投機目的の空売り」なのか「防衛目的のヘッジ売り」なのか、判定するのは極めて難しいでしょう。

 

「防衛目的のヘッジ売り」とは、機関投資家が利益を確保するために行う防衛策です。ある好調な中国企業の株価が、現在1万円だったとします。中国の中でも好調な企業であるため、今後の伸びが期待できますが、中国バブルの崩壊の煽りを受けて下がるかもしれません。下がると株価×株数の損益が出ます。

なので、現在の価格1万円でヘッジ売りをします。空売りと同じく株を一時的に借りて売却しておきます。1万円×株数の利益を手にしましたが、売った株は後で返さないといけないので、まだ利益は確定していません。

さあ中国の暴落が起きました。1万円の株価が4000円と半値以下になってしまいます。そのままですと、6000円×株数の莫大な損益が出てしまいますが、ここでヘッジ売り分を決済します。つまり借りてた株を4000円×株数で買って返すわけです。1万円×株数で確保した株を、4000円×株数で返すわけですから、6000円×株数の利益が出ます。見事に暴落分の損益を相殺できました。

 

本来、先物取引もそうなんですが、空売りも利益防衛が目的なのです。機関投資家は、相場が上がろうが下がろうが利益を出さなければなりませんので、通常の買いと、ヘッジ売りを同時に駆使しています。なので、ある空売りが「悪意のあるものかどうか」なんて、判断できないわけです。

じゃあどうやって中国当局は「悪意」の有無を判断するのか? 今回捜査に出てきたのは、上の記事の通り、「公安省」です。「証券監視所」じゃない。と言うことは、風説の流布とかを判断基準にしていないってことです。体制に対する攻撃で判断してるから、下手すると「幅広い株の売払い」とか「一定数以上の株数」とか、とんでもない理由で摘発されるかもしれないってことですね。

これで公平な市場の形成がなせるのか。まぁ、今回の暴落では「空売り」自体ほとんどなかったらしいですから、ただの責任転嫁なのかもしれません。

 

■情報公開は敵か

英BBC放送(中国語電子版)は6月23日、中国が放送メディアなどに対して、「暴騰」や「崩壊」といった言葉を禁じたうえ、正式発表の情報を適切に報道するよう通達を出したと報じた。

http://www.sankei.com/west/news/150708/wst1507080054-n1.html

投資家が正しく投資判断を下すために、情報公開は必須であります。ところが中国当局は、今回のバブル崩壊で情報規制してしまいました。

これまでの中国株式市場は、景気低迷そっちのけで「暴騰」し、ついにバブル「崩壊」に至ったわけですが、この言葉を禁止した中国政府は、事実を「適切ではない」と判断するようです。
危機も知らなければ、無いのと同じと言うことでしょうか?


以上、取り上げた3点は、いずれも市場の公平性、中立性が全く担保されてないという証明であります。官製相場とは言われてましたが、これはもう次元が違いますね。株価対策なんて言葉は生ぬるい。市場操縦であります。

 

■特別引き出し権(SDR)の構成通貨なんてとんでもない

思えばこんな記事が出たのは、たった一か月前の話です。

IMF調査団が中国訪問、SDR構成通貨見直しで」2015年06月13日

国際通貨基金IMF)は、特別引き出し権(SDR)の構成通貨の見直し作業の一環として、調査団を中国に派遣した。IMF当局者が12日、明らかにした。

中国はSDRの構成通貨に人民元を採用するよう求めている。

http://blogos.com/article/116526/

「特別引き出し権(SDR)の構成通貨」とは、IMFを利用した資金調達における通貨の種類のことです。現在はアメリカドル、ユーロ、円、イギリスポンドの4つが定められています。当然、資金調達に利用するためには、世界市場における流通量が多くないとダメなので(流通量の少ない通貨だと、もう一度流通量の多い通貨に換金しないといけない)、そう簡単にホイホイ変えられるものではありません。
特に中国の「人民元」は、中国の経済規模が突出したせいで流通量が多くなっただけなので、本当に構成通貨にするには、「変動相場の導入」等、超えるべき山がいくつもありました。

それでも、視察団が編成されるほど、無視できる規模でもなかったのです。しかし、今回の中国のなりふり構わない市場操縦には、株価と同じく通貨の公平性や中立性も、ほとんど無い可能性が示されたわけで、SDR中国採用議論にも大きな影響を与えたでしょう。

これからの市場の動向も含めて、中国市場への注視は続きそうです。