世界遺産問題 「賠償問題にはしないと確約を取った」と叫ぶ外務省

7月5日、「明治日本の産業革命遺産」が産業遺産として認定されたことは、大きなニュースになっております。同時に徴用工に関する説明で、日韓の認識の違いがクローズアップされ、大きく議論になりました。
元々世界遺産に期間限定で申請するのが前代未聞だったり、徴用工は非常に説明が面倒だったりと、戦略が求められた案件でした。
特に徴用工には、非常に韓国との認識の差があります。韓国で伝わる徴用工の実態は、云わば「蟹工船」のそれです。劣悪な労働環境、高圧的で凶暴な監督員。そもそも逃亡が許されない極限状態の中、給料はあると言ってもスズメの涙。実際、当時そういう証言をする人を追いかけたドキュメント本も出ており、韓国の人は誰も疑っておりません。
 
しかし、軍艦島にはご存じのとおり、映画館からパチンコ店から、娼館まであり、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の白物家電の普及率も極めて高い、ハイリスク、ハイリターンの場所でした。後期の徴用も、動員されたのは日本人も含めた東南アジアの人々で、韓国に特段配慮するのは、逆に実態を歪めることになります。

ですが今回、外務省はかなり不味い妥協をしてしまいました。
 
■同時に申請されてた韓国の「百済の歴史地区」は日本も賛成票

日本の採決は5日にズレ込みましたが、本当だったら4日に韓国の「百済の歴史地区」の採決と一緒に行われる予定でした。この韓国の採決は、日本も賛成票を投じ、問題なく認定されております。特に今回は採決が一日遅れたおかげで、韓国の申請を日本は賛成し、日本の申請は韓国に翻弄されるという、なんとも相変わらずな姿を晒すことになりました。
本来、こういう状況では、事前の交渉で「お互い賛成票を投じて認定を確実にしようね」と協定を結んでおくものです。しかしどうもそうではなかったようなんですね。
「そちらが問題にするならば、百済の歴史地区については賛成しない」という取引が、なぜできなかったのか。
 

「韓国の百済歴史地区、世界遺産登録…日本も支持」2015年07月04日
百済歴史地区」は、韓国中西部の3地区にある百済王朝の8資産で構成する。6月の日韓外相会談では、日本の「明治日本の産業革命遺産」とともに両国が登録に協力することで一致していた。
百済歴史地区」は当初、日本が推薦した「明治日本の産業革命遺産」の後に審議される予定だったが、「明治日本」の審議日程が先延ばしにされたため、先に登録が決まった。
http://www.yomiuri.co.jp/world/20150704-OYT1T50107.html

 
こういう報道もあるので、本当は協定があったのかもしれません。が、だったらもっと「協定を結んだ」としっかり発信して、「協定違反をした韓国」の責任を追及する段取りを、整えておく必要があったでしょう。
この記事が7月4日に出てきている時点で、既に遅過ぎるのです。6月の外相会談終了と同時に、しっかり「韓国は約束を守るべき」と周知徹底しなければ、一方的にやられ放題です。この点は、明らかに外務省の失態であります。
 
■「forced to work」はどんな意味?
そして今問題となっている「forced to work」の解釈ですが、日本は「働かされた」のであって、強制労働ではないとしています。がしかし、これはかなり厳しい言い訳でしょう。普通に読めば「働くことを強制された」という意味になるので、これを認めないのは、かなり苦しい。
確かに「forced labor」より平易な表現で、意味の幅が広がりますが、「forced」の方をなんとかしないと大して意味は変わりません。たとえば「obligated labor」(労働の義務を負わせた)というような意味にする必要があったでしょう。この点も外務省の力不足だったと言えます。
 
■外務省は失態連発を防げるか

世界遺産ゴリ押しで不可避な“反韓” 室谷克実氏「日韓関係は修復不可能」」
岸田氏は「『強制労働』を意味するものでない」と説明し、財産請求権の問題は完全に解決済みとする従来の日本政府の立場に変わりがないと強調。外務省筋も、委員会での日本側の発言を裁判で使わないという確約を韓国政府に何度も確認したという
http://www.zakzak.co.jp/society/foreign/news/20150706/frn1507061830013-n2.htm

現在韓国では、徴用工問題で裁判が進行中であります。この裁判で、今回の日本側の発言を利用しないと外務省は確認したそうなんですが、どうなるんでしょうか?
もっともっと韓国と協議した内容を外に発信して、記録と記憶に残すようにしておかなければ、また同じことが繰り返されてしまいます。
今回の遺産登録で様々な失態を行った外務省の、さらなる失態とならないことを祈りましょう。