黒船が次々来航 試される日本の映画、ドラマ、アニメの創造力

海外から莫大な投資が入りつつあるニュースが頻発しています。こういうニュースが出るということは、世界的に好景気になりつつあるということでしょう。さらに行き過ぎてバブルになりつつあるのかもしれませんが、資金があるうちに次のステップに進むことが、その後の荒波に立ち向かう一番の解決策です。
 
■前代未聞の事態が、NHK
2017年2月、タレント又吉氏による芥川賞受賞作品「火花」のドラマが、NHKで放送されました。見た方もかなりいたと思います。でもドラマ最後に流れるクレジットを見て、「あれ?」っと思った方はどのくらい居たでしょうか?
実はあのドラマ、日本の放送局陣営が、海外巨大資本の猛威に巻き込まれた象徴的な作品だったのです。

「日本のNHKNetflixの連続ドラマ『火花』を獲得」

日本の公共放送局NHKが2月からNetflixのオリジナル連続ドラマ『火花』を放送する。
Netflixによるこのオリジナルシリーズは、タレント事務所の吉本興業電通デジタル・ホールディングスが共同で製作し、昨年6月から配信された。コメディアンの又吉直樹芥川賞を受賞したベストセラー小説を原作とし、ベテラン監督の廣木隆一(映画『さよなら歌舞伎町』)によって製作され、190の国と地域に同時ストリーミング配信された。
http://variety.co.jp/archives/15001

外資本が、日本人が書いた本を、日本人のタレントを使ってドラマ化し、世界に配信した後、NHKが金を払って放送した、という話なんです。
Netflixは、アメリカのストリーミング配信事業会社です。上の記事にあるとおり、最初から世界市場での配信が前提です。だから見た目だけのアイドルを並べとけ、という発想がありません。日本でしか知られていないアイドルを使っても、世界の市場にとっては、意味がないからです。このストーリミング市場には、インターネット流通の巨人アマゾンも参入しており、既に激烈な競争が起きています。
 
 ■海外より遥かに視野が狭い日本メディア

「戦国・動画配信 停滞するNetflix、手堅いドコモ、備え急ぐ民放…」2017年07月31日
「6月30日をもって終了しました」―。ゲオホールディングスの定額動画配信サービス「ゲオチャンネル」のホームページには、こうした文言が掲載された。2016年2月の提供開始から、わずか1年4カ月で幕を閉じた。早期に100万件という会員獲得目標を掲げてスタートしたが「会員数が思うように伸びなかった」(ゲオホールディングス)という。
野村総合研究所によると、動画配信市場は15年度の1531億円から22年度に4割増の2188億円まで拡大する見通し。一方で市場の成長を期待し、多様な企業が参入した。
http://newswitch.jp/p/9881

ビデオレンタル大手のGEOが早々に撤退することになりましたが、既存のビデオコンテンツを定額で提供するという視点だと、勝てないわけです。かつてゲーム業界にも、「3DO」という既存コンテンツの移植だけでデファクトスタンダードを狙ったゲーム機がありました。でも、オリジナルコンテンツを抱える任天堂セガに負けてしまったわけです。上の記事はNetflixがそこまで結果を出していないとしていますが、自らコンテンツ制作を行うNetflixは、そう簡単に沈まないでしょう。実際、2017年8月2日に、「Netflix アニメスレート2017」というイベントを東京国際フォーラムで行い、新たな制作アニメタイトルの発表会が行われました。

Netflix アニメスレート2017」レポート:クリエイターには最高の環境を、視聴者には最高の体験を」
http://www.gizmodo.jp/2017/08/netflix-anime-slate-2017.html

Netflixの世界戦略を「アニメ」に見た──独自作品の配信を強化する本当の理由」

今回ネットフリックスが東京で発表した12の新しいアニメは、ラインナップから消えることはない。しかも、Netflixがサーヴィスを提供している190カ国すべてで視聴可能になる。そしてこの戦略だけが、優れたラインナップと熱心な視聴者を擁するアニメ配信サーヴィスのCruncyrollやFunimationなどに打ち勝つ唯一の道なのである。
https://wired.jp/2017/08/13/netflix-anime/

独自コンテンツこそ生きる道。そしてユーザー獲得に貢献した後は、NHKが放送した「火花」のように、地上波放送局に権利を売って資金を回収すればいいわけです。早々に撤退することになったGEOとは、最初から見てるステージが違いますよね。
またこの流れは、欧米の配信サービス会社だけのものではありません。
 

「中国勢が日本のアニメを「爆買い」する事情」
『霊剣山』は中国の人気ウェブ小説が原作で、日中共同出資の霊剣山製作委員会がアニメ化した。制作したスタジオディーン(東京・吉祥寺)は、『うる星やつら』『めぞん一刻』などで知られる高橋留美子作品の一連のアニメ化に参加したことなどで知られる中堅スタジオだ。
実はこのアニメには、製作当初から「使命」があった。日本で作られ、日本で放映された日本クオリティのアニメとして中国に逆輸入するというものだ。中国では今、日本のアニメが高騰している。有料動画配信サービスが激しい競争を繰り広げており、その中で「ユーザー獲得力のあるコンテンツ」として日本アニメの配信権をめぐる買い付け合戦が起こっているのだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/164865?page=2

日本ブランドのアニメが急騰している → 自分で金出して日本産アニメとして逆輸入しよう
この荒っぽさは、ホント中国的であります。
このように、海外資本がたくさん入って凄く良いことばっかりに感じますが、そうでもありません。中国は記事でも触れているように明らかにバブルですし、欧米は投資に見合うドライな判断が待っています。
 
 ■海外資本はリターンがなければ、とっとと逃げる

「『13の理由』大ヒットが一因!? Netflix、オリジナル番組“打ち切り強化宣言”にファン悲鳴」
『ゲットダウン』が配信から31日間でアメリカ国内の視聴者数(18歳〜49歳)を320万人しか集められなかったことが、打ち切りの主たる原因だと見ている。この数は、Netflixの人気番組『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』シーズン4と同条件で比較するとたった5分の1だという。13話で132億円の莫大な製作費用に見合わない結果であるのは明らかだった。

 続いて、先日打ち切りが発表された『センス8』は(中略)5月5日からシーズン2が配信開始になったばかりで、1ヶ月経たずしての突然の打ち切り宣言に、ファンは動揺しきり。すでに計23話も『センス8』の世界にどっぷり浸かり、さらなる展開に胸を躍らせていたからである。

http://realsound.jp/movie/2017/06/post-80403.html

まぁ、当然のことながら、莫大な金額を掛けている以上、リターンがなければ打ち切られるわけです。しかもダメとなったら、放送4、5回目であっという間に切られてしまいます。日本のドラマも打ち切りはありますが、また次があります。しかし彼らは文字通り世界を舞台にしていますから、日本よりインドのドラマの方がリターンがあるなと感じたら、平然と乗り換えるわけですね。彼らはそれが強みですけど、その代わり日本にはドラマの廃墟が残るだけになってしまいます。
今回NHKが「火花」の放映権を獲得しましたが、もしデキが悪くて途中で打ち切りになったら、独占放映権だけ売られることになったでしょう。「日本の放送局は、旬を過ぎた放映権しか手に入らない」。そんな時代がやってくるかもしれないのです。
 
■日本の映画、ドラマ、アニメが進む道
今、邦画やテレビでは、原作を知らない監督が映画を撮ったり、安易にアイドルを集めてドラマに仕立てたりといったことが、度々起きています。それが全く無駄なことだとは言いませんが、その方法は潜在視聴者を殺し、海外の大資本に蹂躙される未来を呼ぶかもしれません。バブル崩壊や、本当の淘汰が始まる前に、質と数字のどちらも達成を本気で目指す。その時が、ついに来たのです。
かつて黒澤明を筆頭に、世界を席巻した日本映画は、長らく沈滞を続けましたが、「シン・ゴジラ」や「君の名は」がヒットを飛ばしました。テレビドラマ視聴率も下り坂でしたが、半沢直樹を境に下げ止まっています。映画もドラマもアニメも、それぞれ新しい客層を捉える萌芽が見えてきています。海外資本が入っている今のうちに、これら新しい波を世界に通じる大波に変えていく必要があるのです。
今この瞬間が、世界からも日本が市場として認められる最後の機会かもしれないのですから。