蟹工船が売れている

80年も前の小説、蟹工船が売れています。
この作品を「共産主義の本じゃん」と嫌悪感を持っている人は、ちょっと慌てすぎ。
内容はそこまで到達しておりません。

とんでもない労働環境の蟹の缶詰工場でもある船で、労働環境改善を訴えようとします。しかし海軍が出てきて、活動は失敗。でもやっぱり酷い労働環境なので、もう一度団結しようとするところで物語は終わります。

プロレタリア文学」と大層な名前がついていますが、共産主義どころか「労働組合を作りたいな」というところで終わってしまっているんですね。だから嫌悪感を持つのは早過ぎます。

この本の内容は、まだ労働基準法も満足に運用されていない時代の話です。
そもそも工船なので、通常の航海法が適用されないわ、船なので工場法の適用も受けないわという法の網目を掻い潜った船である蟹工船
お陰で怪我したら終わり、病気しても終わり、嵐で危ないからって船は置き去り、と凄まじい労働環境なんですね。賭博黙示録カイジの「エスポワール」を降りられなかった人には、こんな未来が待ってるんでしょう。

さてそんな蟹工船に乗る破目になった彼らも、もともとは「周施屋」、つまり今の「人材派遣会社」に派遣されてきた人間です。蟹工船の会社に勤めているわけでも、蟹の缶詰工場の社員でもありません。だから立場が死ぬほど弱い。
蟹工船の監督に殴られて耳が聞こえなくなっても、船の医者は診断書を書いてくれません。逆に労災申請で仕事がなくなっていいのか! と脅される始末です。

最初に書きましたが、これ80年前のお話ですよ。
当時、この手の話が連発し、凄まじい現実が問題となり、労働環境が改善していきました。
そして80年経って元に戻ってしまった、というわけですね。

当時と違うのは、蟹工船に乗っている彼らが「労働組合をダサい」と思っていないことです。「団結は共産主義的なヤバいもの」と思っていないことです。
秋葉原に勝ち組はいないのに、爆発がアキバ程度に向いてしまうところを見ると、実は蟹工船のときより悪化しているのかもしれません。

結局、うまいことしてやられたってことでしょうか?
先だっての狛江市長選では、高橋陣営も、伊藤陣営も「共産市政は、もうたくさんです!」とスピーカーで叫んでいました。
残念ながらその手法は、狛江市では通用しませんでした。が、「共産的なものはダメ」と言って、巻き込まれた大切なものすら捨ててしまった結果がこの状況だとしたら、やはりうまいことしてやられたんでしょうね。