日経ビジネス「ソニーのジレンマ」を読む。

日経ビジネス(2010年3月1日号)で掲載された特集「ソニーのジレンマ」。ネット版で一部が紹介されていましたので、取り上げたいと思います。
SCE社長の平井氏は、4/1以降の新SCEでもそのまま社長として留任することになっています。その平井氏は現在のゲーム事業を、どう捉えているのでしょうか?

「ゲームで培ったネットワーク資産生かす」
平井――今年1月に米ラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では、各社とも3Dを展示の目玉に据えました。各社強弱はありますが、コンテンツに力を入れる方針も打ち出していました。
 当然のことながら競争は激化しますが、ソニーには強みがあります。グループ全体での戦略の中でプレイステーションネットワークPSN)を活用できることです。PSNのアカウント数は約4000万。液晶テレビブラビア向けにSOLSがスタートした瞬間、このアカウント数がすでにサービスに登録されていることになります。
 そして36カ国、22通貨、12言語に対応していることも大きい。SOLSはこの基盤を活用して、3月からまずは米国や日本、英国、ドイツなど6カ国に向けてテレビやパソコン向けに順次サービスを始める予定です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100301/213109/

これから始まるソニー戦略の中核に「SOLS」があります。これは「ソニーオンラインサービス」の略称で、元はSCEで運営していたPSNです。SCE解散の際、PSNソニー本体に移す方法で、債務をソニー本体がかぶりましたが、簡易合併で債務を動かす方法の1つとして取られただけかと思っていました。
しかし実際はもっと目的が大きく、「3D対応ブラビア」投入に合わせて始まるコンテンツビジネスのインフラとして位置づけられていたのですね。
コンテンツビジネスへの転換は、長らくストリンガー会長の構想の根幹でもあり、「SOLS」によって遂に現実化することになります。管理運営は新会社「ソニー・ネットワークエンタテインメント」で行われ、PS3PSPはこの会社の配信するコンテンツビジネスのデバイスの1つという位置づけになるようです。

―― 昨年4月、ソニーは組織を刷新して、NPSGとコンスーマープロダクツ&デバイスグループ(CPDG)という2つの製品統括組織を作りました。ソニーは遠心力が働きやすいと指摘されてきましたが、新体制ではどうでしょうか。
平井――組織的にSCEはNPSGの中に入りましたから、この2組織の中では調整すらない場合もあります。パソコン事業トップの鈴木国正SVPは、昨年7月からSCEの副社長も兼務しています。つまりバイオとプレイステーションの連携話なら鈴木のところで決められるわけですから、その場で意思決定できます。

 私にしても同じです。1年前の体制でソニーがSOLSをやろうとして、SCEのインフラ(PSN)を使おうという話になったとします。でも以前の私はSCE社長という立場ですから、SCEのメリットを考えなければならなかった。今はソニーのNPSGのトップも兼ねていますから、SCEが完全に同じ方向に向かって進めることができます。

なんかさりげなく爆弾発言している気もするのですが。一応4/1以降も平井氏はSCEの社長にあり続けるはずなのですが、今はそうではないようなコメントをしています。それに、SOLSはSCEのメリットにもなるはずなのですが、違うのでしょうかね?
懸念されるのは、ソニーネットワークエンタテイメントの存在です。4/1以降新SCEは、ソニーから離れ別会社として生まれ変わることになっています。別会社と言うことで、ブラビア3Dに配信する場合と、位置づけが変わるのは間違いありません。まさかとは思いますが、新SCEがコンテンツ料を払わないといけないことになるのでしょうか?

―― これだけ緻密なやり取りをするのであれば、SCEを別会社にしておく必要はあるのでしょうか。
平井――それはソニー・ミュージックエンタテインメントソニー・ピクチャーズエンタテインメントソニーに取り込むと言っているようなものです。エンタテインメントとエレクトロニクスのビジネスは業態も手法も異なります。
 ただし、SCEの場合はハードを持っているところが違う。ですからSCEのネットワーク事業の部分はソニーと一体感を持ってやっていこうと考えています。でもゲームビジネスの部分はSCEでしっかりとやっていかねばいけません。

繰り返し書きますが、4/1以降も平井氏はSCEの社長のはずです。なぜか妙に突き放してる感じを受けるのですが、多分社長のままです。
ただゲームビジネスに対して、ソニー本体が距離を置きつつあるのは間違いないようです。
 
次に前述で出てきた現SCE副社長にして、パソコン事業トップの鈴木氏の言葉です。

鈴木――ネットワークサービスとハードの融合は、もちろん我々もしっかりと打ち出していきます。今、ソニーにはネットワークにつながっている主な製品だけでも携帯電話、パソコン、プレイステーションの3つがあります。それからテレビやビデオカメラ、デジタルカメラなどもある。こうした数々の製品を通じて、コンテンツをシームレスに楽しめるといった体験を、しっかりとわかりやすく提供することが大事です。

やはりこれからのソニーは、ネットワークによるコンテンツビジネスに大きく舵を切るようです。PS3の位置づけも「ネットワークにつながる製品」の1つという位置づけになりそうですね。

―― 3D化の流れはネットワークサービスにおいても、ソニーの競争力につながるでしょうか。
鈴木――ハードの面で言うとテレビやプレイステーション3など、色々な製品が共通して3Dに対応していく世界を当然実現していきます。3Dに関してソニーはグループの総力を挙げて、コンテンツから放送局、製品まで、エンドツーエンドで見られるようにしていきます。
 まずは一早くコンテンツを提供することで業界を引っ張ることがなにより大事です。業界をソニーがリードすれば、自ずとスピード感などで差異化ができる。具体的なタイトル名は言えませんが、今夏に発売予定の3D対応テレビと同じタイミングで3D対応ゲームも発売する予定です。

そしてもう1つの柱が「3D」のようです。PS3も3D対応テレビとともにその流れを牽引する役を担うことは間違いありません。どんなソフトが供給されるのかわかりませんが、3D産業の尖兵として結構重要なポジションを取っていると言えそうです。

―― ソニーが新たなビジネスモデルを生み出したのはプレイステーションが最後だったのではないでしょうか。これからソニーはSOLSなどオンラインを強化することで、儲ける仕組みをどのように変えていくのでしょう。

鈴木――まずハードで儲けないと話になりません。その上でどうサービスなどを乗せていくかが問題になります。ビジネスモデルがその観点からひっくり返ることはありえない。

プレイステーションのビジネスモデルでは、「ハードを赤字で売って、ソフトで儲ける」というスタイルを貫いてきました。魅力的な性能のハードで、魅力的なソフトを売るというこのスタンスは、現在のコンテンツ重視のスタンスにもつながるビジネスモデルでした。しかしこの言葉は、明らかにその否定です。一応この鈴木氏はSCEの副社長の任にあるはずなのですが、現在逆ザヤが続くPS3の存在をどう認識しているのでしょうか?
3D産業の立ち上げに利用するには、どうも言葉の齟齬が見られる気がします。

鈴木――ソニーは人を楽しませたり驚かせたりというのが得意な会社です。我々の事業範囲は広く、面白いものを作れる環境はありますので、後は目の付けどころです。コンバージェンスは大きなマーケットですから、「2社で全部を総取りする」などということはありません。多くの企業が市場を分け合うことになると考えています。その中で正しい絵を描けるかがポイントになります。

コンバージェンス市場とは、携帯とカメラがくっついて融合した市場が生み出されたような、別の分野が一体となる市場のことです。それまで精密で美しさだけが求められていたカメラ市場は、携帯に載ることで、薄く軽く、消費電力の小さなカメラ需要という、別の大きな市場の出現で激変しました。
ソニーはパソコンやカメラやゲームといったソニーが作るハードを、横断的につないでそこから融合市場を生み出そうとしているようです。
そうなると基本的に勝敗のかっちりつくゲーム市場は、ソニー戦略にとってはあまり魅力的な市場ではなくなったのかもしれません。
四月から新たな展開を迎える、SCEソニー戦略。これからもっと詳しい情報が出てくると思いますので、目を光らせていこうと思います。