トップページを制するものが世界を制す 秒読みに入ったテレビ最終戦争

メディアの帝王として君臨してきたテレビ。
ハードとしてのテレビは、地デジ需要をもってしても、赤字を抜けきらず、メーカー各社は厳しい戦いを余儀なくされています。もう既に何年も前から言われていますが、ハード単体で利益を出すのは、コスト競争に突入してから難しくなっているのですね。

日経ビジネス 1/31号
特集 サムスン 赤字転落の真相
「テレビ 明日なき戦い」
――サムスンはなぜ赤字なのか?
サムスンは主力商品である薄型テレビの価格下落などが響いたと説明する。実際、世界的にテレビ価格は猛烈な勢いで下がっている。(中略)日本メーカーの首脳は違う見方をする。「今の事業規模とフォン安水準を考えれば、赤字はあまりにも不自然。出血を覚悟の上で余裕の値下げ攻勢を仕掛けてきている」と分析する。肉を切らせて骨を断つ。そうだとすれば、世界市場でサムスンの後塵を拝してきた日本勢は一段と苦境に陥る。
2010年度に全世界で2500万台の薄型テレビを販売する計画のソニーは、2010年度7-9月期にテレビ事業で160億円の営業赤字を計上した。世界シェア3位でも赤字から脱しきれない。2010年度に2100万台販売を計画し、シェア4位のパナソニックも2010年度7-9月期は赤字だった。

http://nbr.business.nikkeibp.co.jp/post/3011827902/2011-1-31-no-1576

トップも赤字、3位も赤字、4位も赤字。はっきり言って、テレビのビジネスモデルは破壊されています。日経ビジネスの特集では、さらに今後の展開としてスマートテレビ、つまりインターネットテレビ接続の時代の到来が書かれていました。しかしすぐ日本メーカーの幹部の言葉として、スマートテレビで状況は劇的に変わらないと書いています。当たり前です。スマートテレビが主流となれば、儲かるのは別の分野の人たちです。
実は未来のテレビ産業の姿を、今まさに展開している分野があります。携帯電話ですね。
 



特許戦争で荒れ狂うスマートフォンの世界
なぜ、未来のテレビ産業が今の携帯電話なのか? それを理解するにはまず携帯電話の市場が、何を争っているか理解する必要があります。今年7月、遂に新興のアップルは古豪のノキアを破り、携帯業界世界1位の座を仕留めました。

Nokiaスマートフォン市場でついに首位から転落した。Appleとの特許訴訟で4億3000万ユーロを獲得したが、それでも大幅な純損失を計上した。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1107/22/news037.html


アップルは全方位に特許戦争を仕掛けていまして、ノキアもその標的となりました。上の記事で出てくる「Appleの特許訴訟」が正にそれで、見事にアップルは敗北。巨額のライセンス料を払うことになっています。それでも、ノキアは赤字であり、アップルは黒字なのですね。

各社の訴訟関係をまとめたのが、左の図です。
互いに訴え合う特許戦争は、しっちゃかめっちゃかで全く理解できないほどです。が、大事なのは円で囲ったところです。細かい裁判が行き着くところは、アップル、グーグル、マイクロソフトの陣営争いなのですね。実はこの3社は、それぞれの分野におけるトップページビジネスの成功者です。アップルはiTuneという音楽DL分野、グーグルはインターネット検索分野、マイクロソフトはインターネットブラウザ分野です。そして現在、3社が戦いを繰り広げているのは、スマートフォンのOSの覇権です。
アップルもグーグルも、出自はパソコン畑ですから、OSの威力を身を持って経験しています。そもそもパソコンのOSの歴史は、IBMが自らのパソコンにMS/DOSを選び、結果ただのハードベンダーに転落していく歴史なのですから、威力は説明するまでもありません。
そしてもう1つ、ガラパゴスと言われる日本の携帯電話の姿は、かつての8ビットパソコン時代の御三家から、NEC独占、そしてコンパックショックに至る日本のパソコン市場の姿にダブります。日本語表示という特殊事情のおかげで、鎖国状態だった日本のパソコン市場は、現在のガラパゴス携帯と同じく、世界の競争と一線を画した市場でした。しかしコンパックショック以降、国民機と自ら豪語したNECですら、最後にはパソコン事業撤退となったのです。回線のキャリアという事情の違いはありますが、同じことが携帯電話に起こらないとも限りません。そしてコンパックショックを起こした当のコンパックですら、今その姿はありません。でもマイクロソフトは今も君臨しています。ハードベンダーは消えてもソフトメーカー、OSというパソコンのトップページに君臨したものは勝者として生き残ったのです。
今のスマートフォンにおける激烈な特許戦争とは、トップページビジネスの決着がほぼついたパソコン市場の強豪達が集結し、次のトップページに君臨すべく争っている市場なのですね。


 
トップページビジネスとは何か
Yahooによって確立したビジネスモデルですが、実は究極のソフトビジネスでもあります。様々なニュースや情報が一まとめにされていることが、価値を生む。つまりサービスのさらに胴元になることが利益を生みます。
この仕組みは、携帯電話ではより先鋭化されています。数々のソフトは、ランキングに載ることで売れていきます。どんなユーティリティやゲームでも、ランキング上位に載り続けるか、そうでないかで売り上げが何倍にも違ってきます。
しかし本当に儲かっているのは、ソフトを開発した人ではありません。ランキングを設定した人です。そこに登録を許した人です。パソコンでYahooにサイト登録するのは無料ですが、モバイルYahooにサイト登録すると有料です。Yahooはいち早く携帯電話に参入しており、モバイルインターネットのトップページを独占してしまっています。Yahooがスマートフォンの特許戦争に参加しないのは、既に勝者だからなのですね。
 

トップページの無い「テレビ」というハード
携帯市場で起きている暴風雨が、いずれテレビ市場にもやってきます。なぜなら、テレビには未だトップページが存在しないからです。
過去の経緯のおかげで、テレビはスイッチを入れると必ず『スイッチを切る前のチャンネル』が表示されます。地デジが導入されても、ケーブルテレビが入っても、この形態は変わりませんでした。おそらくこれからも、テレビはスイッチを入れたら、前のチャンネルを表示し続けるでしょう。
では、トップページはテレビに存在しないままなのでしょうか?
左の画像は、今年6月のE3で明らかになった任天堂の次世代機、『WiiU』のPAD型コントローラーです。私はこれを見たとき、「あっ!」と思いました。
テレビのコントローラーがPAD型になれば、初めてトップページが生まれることになるわけですから。
このWiiUパッド型コントローラは非常に良く出来ておりまして、画像を本体から無線で飛ばして表示しています。おかげで映像部品が少なく、発熱が少なく、重さを軽くできます。
また、表示できるものは、テレビと同じものもできますし、別の映像も表示できます。テレビ本体はスイッチが入っていなくても、PAD型コントローラに映像を映すこともできるわけです。
 
今のテレビのリモコンは、機能の多さに比例して非常にボタンが多くなっています。あのリモコンを使いこなす人は、かなり少ないでしょう。言ってみればガラパゴス化している最たるものです。
テレビのリモコンが、PAD型コントローラになり、6インチ超の画面を持つようになれば、お勧め番組の予告を流すことができるようになるでしょうし、先週の視聴率ランキングを表示できるかもしれません。CMをストリーミングできれば、CMのリクエストランキングも表示できるかもしれません。CMが番組化するわけですね。
そうそう、EPGの番組表もトップページビジネスです。一時、ソフトを「コンテンツ」と理解し、たくさんの番組を確保することが勝者への道と勘違いした時期もありました。が、本当に利益が出るのはEPGの番組表のように、コンテンツまで導くトップページビジネスであることは、これまでの事例で明らかだと思います。
 
そして忘れていけないのは、ビデオとの連携です。ビデオのリモコンは、さらにボタンが多い。今では蓋を開けるとさらにボタンが増える有様です。あんなリモコンは、何か革新的なコントローラが出てきたら、あっと言う間に廃れますよ。
今、地デジチューナーを入れてる家庭では、この上、地デジのリモコンまであるわけで、ボタンだらけの3つのリモコンがお茶の間に溢れてることになります。PAD型コントローラがこの問題を一挙に解決してくれるかどうかはわかりませんが、液晶の表示をいくらでも切り替えられる特徴が、解決の糸口となるかもしれません。
「いや、モニタを積んだ大きなコントローラなんて、ユーザーは受け入れるわけないよ」と思う人もいるかもしれません。しかしトップページビジネスを追求してきたアップルがiPADを発売し、ゲームというアプローチを追及してきた任天堂が、前後して同じ結論に行き着いたのです。偶然と片付けるには、あまりに危険な状況です。どちらのメーカーも、ユーザーインタフェースという分野を追求してきたメーカーであることも見過ごせません。
さらにこんなニュースもあります。グーグルがモトローラの特許を買収し、各陣営の特許の保有が拮抗して、スマートフォンの特許戦争は収束に向かう可能性が出てきました。

スマートフォンから家庭用デバイスへ飛び火
特許の「おまけ」的な存在ではあるが、モトローラ・モビリティが抱える家庭用セットトップボックス事業も無視できない。グーグルではテレビ向け事業として「グーグルTV」を手かげているが、今のところ成功したとは言えない状態にある。モトローラが大きなシェアを持つCATV向けセットトップボックス事業などとグーグルのアンドロイド事業が組み合わされることで、テレビに向けたサービスも強化できる可能性がある。
グーグルのペイジCEOも「我々はとても興奮している。家庭用端末事業を拡大していく」と語っている。
アップルが「アップルTV」、マイクロソフトが「XBox」で家庭のテレビとつながりを強めるなか、グーグルも新たな家庭用デバイスを手に入れることになる。これからの戦いはスマートフォンの世界に加えて家庭用デバイスの世界に飛び火するかもしれない。
http://www.nikkei.com/tech/personal/article/g=96958A9C93819499E3E4E2E3808DE3E4E2EAE0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;df=4

スマートフォン市場で戦いを繰り広げるアップルやグーグルやマイクロソフトは、既にテレビのトップページの戦いを始めているわけです。任天堂Wiiでは、ゲーム機にも関わらず、天気予報からニュースからテレビ番組表まで提供してきました。残念ながら、『画面に最初に映るのは、消したときのチャンネル』という大原則のおかげで、各陣営の目論見は成功していません。しかしPAD型コントローラが出始めれば、各陣営は間違いなく参入してきます。もちろんその時、「従来のリモコンは自社、PAD型はアップル」などという選択をしてはいけません。

ソニーは米グーグルと組んで開発したネット対応テレビを2010年10月に先行発売したが、「ネット対応にしてもそれほど付加価値が高まると考えていない」(石田佳久ホームエンタテイメント事業部長)と割り切る。

最初に紹介した日経ビジネスの記事の内容ですが、こんなかつてのIBMと同じようなマネは言語道断です。儲からないとわかってるなら、割り切っては駄目ですよ。こんな行為は、赤字に喘ぐテレビ産業の最後の砦を、みすみす敵に献上するようなものです。テレビのハードが目指すのは、テレビ本体と親和性の高いWiiUのようなPAD型コントローラです。PADへの映像出力を本体が管理し、コストも安く、軽いコントローラを目指すのです。iPADやグーグルタブレットが競合しても、勝てる絶対の優位をハードベンダーが握らないといけません。
 



最終決戦は2012年か
iPADが牽引するPAD市場は、予想より早く世界で拡大しています。

2011年上半期のiPad出荷台数は70万台、市場シェア85%に――ICT総研調べ
世界市場におけるタブレット端末の出荷台数は、2010年には1720万台に達し、アップルはその8割強にあたる1490万台(シェア86.6%)を出荷した。Samsung電子のGalaxy TabLGエレクトロニクスのOptimus Pad、MotorolaのXoomといった対抗商品もシェアを拡大しており、2011年にはこれらの製品が1490万台に達する見込みだ。
しかし、iPadシリーズもそれを上回る勢いで出荷台数を伸ばしており、ICT総研では2011年の出荷台数は3850万台に達すると予測している。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1108/03/news072.html

世界で、のべ3850万台。PAD型デバイスユーザーが、こんな速度で生まれ続けていることに注目する必要があるでしょう。そして、WiiUの発売は2012年です。ゲームと言うアプローチから、PAD型コントローラに触れるユーザーが大量発生することになります。
そもそもビジネスモデルは、自ら構築するものです。PAD型デバイスの普及の推移を見守ってから、などと悠長なことをやっていると、気付いたらテレビのトップページをiPADが提供し、莫大な広告料をがっぽり稼いでいるということになるかもしれません。テレビのトップページビジネスへの転換は、業界トップですら赤字に染まるテレビハード市場を改善する、最後のチャンスと思われます。
テレビというハードの最終決戦を、日本のメーカーに勝ち抜いて欲しいですね。