臨界点を迎えた欧米ゲーム市場 崩壊するメガパブリッシャー達

「破綻するビジネスモデル〜欧米ゲーム市場の危機」というエントリで、赤字に転落した欧米ゲーム市場を問題にしたのが2009年2月です。ハイグラフィックによる開発費の高騰に、中古市場の拡大が追い討ちをかけ、日本と同じ売上初動型に市場が変化したことを記事にしました。結果、発売日に売上を稼ぐ日本型の商売方法を取らざるを得なくなったのですね。そのため、ここ数年起きていたのが広告費の暴騰です。発売日までに、できるだけユーザーへの認知度を上げなければならず、広告費がどんどん上昇したのです。

EA「デッドスペースが生き残るには、500万本の売上が必要」2012年6月15日
Dead Space needs “around five million” fans to survive, according to EA
http://www.pcgamer.com/2012/06/15/dead-space-needs-around-five-million-fans-to-survive-according-to-ea/

売上目標が最初から500万本なんて、途方もない話です。こんなやり方が長続きするわけありません。ついにこの夏、臨界点を迎えてしまいました。
まず、世界売上1位のヨーロッパ最強のパブリッシャー、「アクティビジョンブリーザード」。

Activision Blizzardの売却先候補にはマイクロソフトの名前も」2012年7月11日
 
先月末、親会社のVivendiが株式の売却に乗り出しているとの報道があったActivision Blizzardですが、ロイターが新たに伝えるところによると、交渉先としてマイクロソフトTime Warnerの名前が挙がっているそうです。
Vivendiはフランス最大のメディア企業として知られ、米国最大手ゲームパブリッシャーであるActivision Blizzardの60%に当たる株式を所有。
http://www.inside-games.jp/article/2012/07/11/58129.html

勘違いしてはいけないのが、「ソフトはちゃんと売れている」ことです。アクティビジョンリザードの人気ソフト、「コールオブデューティー」シリーズの最新作「コールオブデューティー モダンウォーフェア3」は、世界累計2300万本という超メガヒットを記録し、2011年最も売れたソフトとなりました。売れるべきソフトがきっちり売れてるにも関わらず、身売り話が出てしまう。ここにハイグラフィックに突っ走った海外ゲーム市場の歪みがあります。
上の記事で、買収先として名前が挙がっているマイクロソフトも、スタジオ再編を行っています。

マイクロソフトが複数プロジェクトの中止を発表、バンクーバースタジオ閉鎖の噂も」2012年7月26日
 
開発中止の理由は「長期的な目標と開発プランにうまく向かうための助けになると感じたため」と説明。『Microsoft Flight』については今後もコミュニティーのサポートを続け、ゲームも公式サイト上で引き続き無料にてダウンロードが可能とのこと。
余談ですが、Rockstar、UbisoftActivisionカプコンなど、最近になってバンクーバーを拠点にするスタジオの閉鎖やレイオフが相次いでいます。

http://www.inside-games.jp/article/2012/07/26/58445.html

マイクロソフトキネクトも世界で800万台売れましたが、プロジェクトがいくつも中止する事態になっています。
そして、世界2位の売上にして、アメリカ最大のパブリッシャー、「エレクトリックアーツ」の危機が伝えられました。2011年の世界累計2位を記録した、「バトルフィールド3」は960万本を突破。他にもサッカーゲーム「FIFA13」が、800万本を超えています。にも関わらず赤字を出てしまうのですね。

「EAが身売りを検討?PEファンド2社が接近」2012年8月22日
 
シムシティ』や『クライシス』、『EA Sports』などの人気シリーズを抱えるEA(エレクトロニック・アーツ)が、自社の売却を検討していると海外サイトで報じられています。
情報元によると、売却に関する議論はまだ初期の検討段階であり、PEファンドの大手であるKKR(Kohlberg Kravis Roberts & Co)とProvidence Equity Partnersが興味を持っているということです。
http://www.inside-games.jp/article/2012/08/22/59126.html

エレクトロニック・アーツ大幅高、身売り交渉との報道で 」2012年8月17日
 
EAはオンラインゲームへ事業の軸足を移そうと試みているが難航、株価は年初から前日までに36%下落していた。同社は小売店を通じた売上高が減少傾向をたどっている。
同社のジョン・リッキティエロ最高経営責任者(CEO)は販売が減少している小売店への依存を低下させるため、オンラインゲームのタイトル数を増強している。
http://www.inside-games.jp/article/2012/08/22/59126.html

アクティビジョンリザード(AB)とともに、エレクトリックアーツ(EA)も、HD環境を駆使したハイグラフィック戦略から転換し、オンラインゲーム主体に軸足を移そうとしていますが、なかなかうまく行っていません。それもそのはず。数億人という凄まじいユーザー数を誇るソーシャルゲームベンダー「ジンガ」ですら、2期連続赤字に転落しているのです。
 
■「オンラインゲーム=賭博ゲーム」になる未来

「ジンガ、4-6月期は赤字転落 通期業績見通し下方修正」2012年 7月26日
 
ソーシャルゲーム開発大手ジンガが25日発表した4-6月期(第2四半期)決算は、増収を果たしながらも費用増が響き、またも赤字となった。
http://jp.wsj.com/Business-Companies/Earnings/node_484142

「無料でユーザーを確保し、アイテム課金などで収入する」というフリートゥープレイ(F2P)。つい最近まで、もてはやされてきたこのビジネスモデルは、競合他社との競争激化で、広告費、企画費が天井知らずに上がり始めました。無料だと、とにかくユーザーを確保し続けるのに金がかかるのです。この状況を打開するため、今ソーシャルゲーム各社は、賭博に未来を見出そうとしています。
 

「実際に現金を賭ける賭博ゲームをFacebookが英国で計画」2012年8月08日
  
Facebookはネット賭博のオペレーターであるゲームシスと共同で、実際に現金を賭けることができる賭博ゲームを英国で開始します。
現在のところこれは英国だけの試みであり、Facebookはお得意のユーザー・データ分析システムを駆使して、厳格にユーザーが18歳以上であることを確認した上で、ゲームへの参加を許します。
アメリカでの状況ですが、オバマ政権は去年の12月にオンライン賭博は合法であるという判断を示しています。但しスポーツ・べッティングだけは禁止されています。
 
ジンガは先の決算のカンファレンス・コールで2013年に実際に現金を賭けるネット賭博に参入すると発表しています。
http://markethack.net/archives/51834485.html

そりゃ賭博は儲かるでしょうよ。収益率を考えたら究極の選択ですわね。しかし、いくら厳格に年齢チェックをやったって、グリーやモバゲーで、散々社会問題化している日本から見ると、絶対何か起こるに違いありません。欧米が大きく舵を切ったソーシャルゲームの賭博化。それは、本当に正しい道なのでしょうか?
このまま行けば、欧米のソーシャルゲームは、結局賭博ゲームに収束していくことになります。F2Pビジネスモデルの破綻宣言も、そう遠くないかもしれませんね。