「慰安婦合意」について沈黙する政府 韓国への忖度は間違いを加速するだけ

ニューヨーク現地時間25日、日韓首脳会談が行われ、その中で「慰安婦合意」が取り上げられました。しかし待っていても、出てくる反応は韓国側だけで、日本の反応が出てきません。

「文大統領、慰安婦財団の解散示唆…宙に浮いた10億円」2018年09月27日
日本はひとまず公式的な反応を控えている。韓日首脳会談の結果に対する記者会見も青瓦台側とは違う状況だった。西村康稔官房副長官はニューヨーク現地で記者団に対し、「文大統領が(和解・癒やし)財団の状況について説明したが、この席での発言を詳細に紹介することはしない」と述べただけだった。安倍首相が先に触れたと青瓦台が明らかにした強制徴用問題に対しても、西村副長官は「安倍首相が(日本の)基本的な立場を述べた」と答えた。日本政府だけでなく、日本メディアも26日付の夕刊までは両首脳の発言をそのまま紹介するだけにとどまっている。
https://japanese.joins.com/article/512/245512.html?servcode=A00§code=A10

うーむ、どうなってるんでしょうかね?
この沈黙がもし、韓国への配慮のせいならば、その選択は間違っていると言わざるを得ません。

慰安婦:「合意履行」vs「財団解散」、正面衝突した韓日首脳」
26日に早稲田大学で開催された「小渕−金大中 共同宣言20周年記念学術シンポジウム」に出席したある専門家は「今は韓日両国が歴史問題で口げんかしている時ではなく、北朝鮮問題を介して協力すべき時」と指摘した。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/09/26/2018092602276_2.html

そうですね。どう考えても今は北朝鮮核問題が最優先で、その解決のために同じ問題を抱える韓国と協力すべきなんです、本来は。
でも、間違っています。この分析は、韓国以外の国なら当てはまるんです。それも従軍慰安婦問題以外なら。今まで、この一見正しそうな選択をして、いったい何度、日本は間違ってきたでしょうか。いい加減、過去の失敗から学ぶべきでしょう。
 
北朝鮮問題で、韓国と本当に協力できるの?
日本と韓国は、共に北朝鮮の核の危機にさらされ、問題を共有している同士であり、核廃棄に向けて協力していく関係にあります。この分析は正しいと思いますが、問題は一方の韓国がそう思っていないことです。

「文大統領「北朝鮮が約束破ったら制裁をまた強化すればいいだけのこと」2018年09月26日
文大統領はこの日、FOXニュースとのインタビューで、北朝鮮が非核化合意を履行しない場合の措置に関連して「たとえ(北朝鮮への)制裁を緩和することがあっても、北朝鮮が欺く場合、約束を破る場合には、制裁をまた強化すればいいだけのこと」と述べた。
続いて「ドナルド・トランプ米国大統領と金正恩キム・ジョンウン北朝鮮国務委員長が相手の約束を信頼する土台の上で非核化交渉を展開していっても、米国は損することが全くない」と明らかにした。
https://japanese.joins.com/article/493/245493.html

北朝鮮金正恩総書記が、アメリカ本土にまで届く核開発のために時間稼ぎをしているのは、随分前から言われてました。なのに、「米国は損することが全くない」と言う。韓国側の反応のいくつかを見ていると、「このまま北朝鮮が核保有のまま、韓国と統一すれば楽に核保有国『統一朝鮮』ができるじゃん」と、なんともお花畑な夢があっちこっちで語られています。そんなことアメリカも中国も許さんだろうと思うのですが、文大統領がここまで北朝鮮の肩を持つ理由は、他に見当たりません。こんな北朝鮮の代弁者となっている韓国と、日本は本当に協力できるのか、日本側も事実を正確に把握して、分析する必要があるでしょう。
 
また、「慰安婦合意」について韓国に指摘しなかった場合、こうした韓国の姿勢が改善するのでしょうか?
逆に「慰安婦合意」について韓国に指摘した場合、北朝鮮問題にどんな影響があるのでしょう?
「なんとなく何か悪影響が合ったら困るから」というだけなら、指摘しないことで起きる日本の損失に目を向け、方針変更をした方がいいと思います。
 
■財団の解散は「慰安婦合意」違反に決まってる

慰安婦支援財団解散に現実味 日本拠出10億円の扱いは?=韓国」2018/09/26
政府当局者は「大統領の発言で方向性は定まった状況だ」とし、「被害者の意見を取りまとめて関係官庁で協議し、近いうちに財団に対する政府の立場を決めることになるだろう」と述べた。
残された問題は、韓日関係に及ぼす影響だ。文大統領は今回の韓日首脳会談で「慰安婦合意を破棄したり再交渉を要求したりはしない」と述べたが、慰安婦合意に従って設けられた財団が解散すれば、日本はこれを合意の破棄と受け止める可能性もある。
http://japanese.yonhapnews.co.kr/relation/2018/09/26/0400000000AJP20180926000800882.HTML

合意破棄も何も、「合意違反」であることは明白であります。もう一度合意文を確認してみましょう。

「共同記者発表全文」2015.12.28
(1)慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。
 安倍(晋三)内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。
(2)日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒す措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心を傷の癒しのための事業を行うこととする。
(3)日本政府は上記を表明するとともに、上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
https://www.sankei.com/politics/news/151228/plt1512280033-n4.html

(2)にちゃんとありますね。韓国政府が支援を目的とした財団を設立すると。解散したら合意違反です。しかし文大統領は、それを否定しています。

文大統領はこれに対し「慰安婦合意の破棄や再交渉を求めることはないだろう」と答えた。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/09/26/2018092602276.html

でも、こんなことは成り立ちません。慰安婦合意の破棄や再交渉を求めないなら、財団の解体はできないし、財団を解体することは、すなわち合意の否定です。両方並び立つなんてことは有り得ないのです。
おそらく、日本側は文大統領の「慰安婦合意の破棄や再交渉を求めることはないだろう」という言葉を重視し、韓国側は「財団解散を日本側に通知した」ことを重視したという、玉虫色の決着なんでしょう。しかし、「合意履行」を求める日本側が、「財団解散を示唆」すること発言を放置するのは、「合意の毀損」を黙認する行為であり、外交的敗北です。「北朝鮮核問題に対応するため」などという理由では、認められない悪手なのです。
 
■外交の妥協は、更なる問題を生む
韓国側が狙うのは、「慰安婦合意」の破棄とか再交渉ではありません。棚上げ、有名無実化です。で、今回財団解散を示唆したことで、それは達成されたと認識しています。

慰安婦支援財団解散に現実味 日本拠出10億円の扱いは?=韓国」2018/09/26
申氏は「核心は、すでに有名無実化した和解・癒やし財団ではなく、強制徴用関連の大法院の判決」としながら「結果によっては、日本は今後当面の間、韓国とは外交的合意を一切しないという原則を定める可能性があり、これは米国などとの関係設定においても問題になるだろう」と懸念を示した。
https://japanese.joins.com/article/512/245512.html?servcode=A00§code=A10

問題は「有名無実化した財団ではなく、強制徴用だ」ってはっきり言ってる記事まであります。一つの外交的妥協が、新たな外交的妥協を持ち出す導火線になっているのですね。
強制徴用の最高裁判決は、慰安婦合意どころか、戦後スキーム丸ごとひっくり返そうという大変な判決です。普通なら考えられないことですが、今の北朝鮮と一致団結し、反日に傾倒する韓国国民の雰囲気から、「強制徴用を認める判決」が出る可能性が高いのが問題ですね。
もちろん「日韓基本条約は無効」なんて判決は出ません。「日韓基本条約は無効ではないが、強制徴用の実態を認め新たな賠償を認める」とか、要するに今回の財団解体と同じ論理が使われるだけです。「前段が正しいなら、後段は有り得ない」、「後段が正しいなら、前段は有り得ない」にも関わらず、日本の決断を求めるという謎理論になるでしょう。
 
今年中に、日本は大いなる決断を迫られる可能性があります。その時どうするのか、今から念入りに計画し、他国を巻き込んで準備しておき必要があるかもしれません。