ラオスダム決壊事故の捜索終了 海のない国ラオスに集う中国、韓国、そして日本

ラオスのダム決壊事故から、早2か月半。雨季によって中断していた行方不明者の捜索が終了したそうです。

「ダム決壊後の捜索終了=死者40人、不明31人」
ラオス政府は10月4日、南部アタプー県で7月23日に発生したダム決壊による行方不明者の捜索を正式に終了したと発表した。40人の死亡が確認され、31人が今なお行方不明のままとなっている。
https://www.nna.jp/news/show/1821761

まだ行方不明者が30名以上いるんですね。ラオスを筆頭にこの地域は、平原が続いているため、洪水が起きるとすぐに水が引きません。ずーっと水が滞留し、泥で埋まるのです。復興に何年掛かるかわからない一番の理由であります。
 
■人件費の安さから注目されるラオス

そんなラオスは、主産業がメコン河に造ったダムによる売電産業と言われていますが、それでも経済成長率は7%と、これからの国です。

周辺国より人件費が安いため、日本、中国、韓国などの企業が多く参入しています。

「深層断面/“タイプラスワン”−ラオス有望市場」

ラオスの製造拠点としての重要性が高まっている。周辺国と比べて労働賃金が低く、経済成長で賃金が上昇している東南アジア諸国に対しても労働集約型の産業では十分な競争力がある。特に日本企業を含めた生産拠点が集積するタイでの操業コストが上昇する中、「タイプラスワン」として注目される。

https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00466177

現在、ラオスには約60社の日本企業が進出し、550人程度の日本人がいます。食べ物もおいしく、水も電気も豊富にあり、単価上の人件費も安く、人も優しい。労働争議などもあまりないとなると、投資先として非常に魅力的に思えるのですが、進出してくる企業が増えると、労働力が不足してしまうというジレンマがありますね。

https://www.jica.go.jp/story/interview/interview_105.html

問題は、海に面していないことです。輸入にも輸出にも他国の道路や港を使わないといけませんから、関税の影響をモロに受けます。

特に北と東は、アンナン山脈が横たわっていてベトナム側への道を塞いでいます。平均標高は1300メートルから1700メートルなので、大して高くない山脈ですが、幅5メートルくらいしかない道しか整備されていないので、貨物の輸送にはまるで向きません。

なので南のタイ側に出るしかないのですが、タイが乗り気でないのです。

重慶バンコクラオス鉄道、1日1〜2便か (4)市民は歓迎、ベトナム人も建設に従事」

ラオスでは、物流コストが高いと言われる。

工場で使用する安全靴を製造するミドリ安全(東京・渋谷)の現地法人、ラオ・ミドリ・セーフティ・シューズの遠藤隆工場長(7月取材当時)は、「賃金上昇分は生産性向上でカバーできる。しかし、自助努力で解決できないのが、タイ国境をまたぐ物流コストの高さだ」と指摘する。

ラオスのトラックが、バンコクまで実質的に乗り入れできない。「タイとラオスの業者間で競争が起きず、タイの物流業者が価格を高めに設定する一因では」と遠藤氏は指摘した。

■非協力的に映るタイ

複数のラオス側関係者は、「タイの物流企業が邪魔をしている」と話す。鉄道輸送によって、トラック輸送や通関手続きの売上高が減少するからだという。

https://www.nna.jp/news/show/1799496

ラオスの首根っこを掴んでる形のタイでは、ラオスのために頑張る必要はないわけで、そりゃあ問題が解決しませんわね。

この状況を変える可能性のある鉄道計画をぶち上げたのが、中国です。
 

■中国、韓国が虎視眈々

中国は「一帯一路」の号令の元、東南アジアの各国に鉄道の敷設計画を立案しました。

「中国・高速鉄道の光と影 (3)「ラオス発北京行き」実現なるか」
中国・重慶市から鉄道と路線バスを使ってラオスに向け南下する。高速鉄道の運賃の安さと正確な運行、快適さは中国の発展の象徴だ。ラオス高速鉄道と結ばれる中国区間も建設中。人家がほとんどないような雲南省山間部を貫く高速道路は既に国境まで繋がっていた。
https://www.nna.jp/news/show/1808067

が、「全ての道は中国に通ず」のごとく、まず計画されている鉄道計画は、各国から中国へとつながる南北方向の鉄道計画です。南北に長い国が多いので、それぞれの国の要求は高いのですが、経済的要求度が高いのは東西方向の輸送インフラです。

ラオスの低い人件費を活用するためにも、中国が南北方向に頑張ってる間に、そこまで標高がないアンナン山脈を貫いてベトナム側へ鉄道を通してしまえば、莫大な利益を得られるのは間違いありません。

みんな考えることは一緒のようで、韓国が東西鉄道の計画を推進しています。

ラオスベトナム間の鉄道建設案件、投資総額50億USD超」2018/04/27
韓国のDohwaとKRTC、Samboのコンサルティング合弁会社はこのほど、ラオスの首都ビエンチャンベトナム中部地方ハティン省のブンアン港を結ぶ鉄道建設案件の事業化調査(FS)の結果を発表した。この事業化調査は韓国国際協力団(KOICA)の支援で実施されたもの。

 調査結果によると、同鉄道の全長は554.73kmで、うちベトナム内にあるムーザー峠〜ブンアン港区間が102.74km。官民パートナーシップ(PPP)方式により、全長6.96kmの橋63本、全長37.63kmのトンネル15本、駅8か所などを建設する。施工期間は2018年から2024年までの7年間。

 投資総額は50億6200万USD(約5500億円)で、ラオスが35億0800万USD(約3800億円)、ベトナムが15億5400万USD(約1700億円)を拠出する。
https://www.viet-jo.com/news/economy/180426190412.html

韓国が調査費を出して、韓国企業が調査事業を受注して、建設費はラオスベトナムが出すという計画です。おそらく肝心の建設請負は韓国企業を想定しているんでしょうね。他国の金でおいしいところを全部持ってこうという凄い計画です。もっともダム決壊で大変なことになった影響が、この計画に出るかもしれませんが。
 
■日本も負けずに食い込み中

「インフラ整備で新指針 日メコン首脳会議 150以上の案件推進」2018/10/9
日本とタイ、ベトナムカンボジアラオスミャンマーは9日午前、都内の迎賓館で日本・メコン地域諸国首脳会議を開いた。日本の政府開発援助(ODA)などを使い同地域で150以上の協力プロジェクトを推進する新たな指針を採択した。
ラオスでの空港拡張やミャンマー道路建設など今後の具体的な案件を列挙した。
南シナ海問題では軍事拠点化を進める中国の名指しを避けつつ「埋め立てや活動を含む南シナ海における状況に対する懸念に留意した」とした。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36246090Z01C18A0EAF000/

もともと中国が「一帯一路」や「南沙諸島」への侵略といった大規模な開発が出来たのは、中国の好景気を背景にした莫大な資金のお蔭です。しかし、アメリカと新冷戦に突入した以上、もうこれまでのような金ばら撒き開発は不可能になるでしょう。むしろこの状況を積極的に利用して、東南アジアを好きにさせないよう日本も力を尽くす必要があります。

国交省、東西経済回廊でトラック・鉄道複合一貫輸送のトライアル実施」2015/03/05
日本の国土交通省物流審議官部門は、8日から13日にかけて、タイ、ラオスカンボジアを通る東西経済回廊でのトラックとベトナム鉄道を活用した複合一貫輸送サービスのトライアル輸送を実施する。
 トライアル輸送のルートはラヨン(タイ)〜サワンナケート(ラオス)〜南中部沿岸地方ダナン市〜ハノイ市。8日にトラックでラヨンを出発し、11日にダナン市で鉄道に積み替え、13日にハノイ市に到着。ハノイ市でトラックに積み替え、同市近郊へトラック輸送する。
https://www.viet-jo.com/news/nikkei/150305121623.html

2015年には、こういうトライアルも実施しているのですが、輸送力では圧倒的に鉄道が有利ですので、やはりラオスベトナム間鉄道計画を日本が主導する必要があると思います。韓国との競争になっちゃいますけど。
ベトナムのハイフォンには、日本とベトナムが連携して建設された巨大な港が、2018年5月から稼動を開始しています。

「ハイフォン:ラックフエン港が開港、日越初の官民連携事業」2018/05/15
この港の完成により、コンテナ船がベトナム北部と北米や欧州を直接結ぶ大型船の寄港が可能となるため、輸送日数の短縮や輸送コストの削減にもつながり、競争力が高まることが期待されている。これまでは中継港での積み替え作業が必要だった。
https://www.viet-jo.com/news/economy/180515081340.html

せっかく作ったのですから、やはりこの港と日本企業が多数進出しているラオスの首都「ビエンチャン」を結ぶ鉄道を見たいものです。
そしてさらに西に行くと、ミャンマーのティラワにやはり日本が整備した上に、運営までやってる巨大な港があります。

「河野外務大臣によるミャンマー・ティラワ経済特区視察」平成30年1月12日
ヤンゴン市中心部から南に約20kmに位置する経済特区。2013年以降,日本政府が円借款により,電力,港湾,道路,上水,通信等の周辺インフラを整備。日本,ミャンマー両国の政府と民間企業による共同事業体が工業団地を開発。総開発面積約2,400ha(山手線内側の約40%)のうち,約500haが開業済。2017年12月現在,85社が契約済,37社が稼働中(うち日本企業は28社)。全体で約5〜6万人の雇用創出が期待されている。両国の官民連携の象徴的案件。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sea1/mm/page3_002343.html

ちょっと南端にあるカンボジアには関わらないんですが、これでベトナムラオス、タイ、ミャンマーと東西経済回廊を実現することができるでしょう。
 
今のところ、日本の東南アジアへの関係の仕方は、港を作ったり、橋を作ったりといった「点」の開発に注力しているように見えます。中国や韓国が「線」を作ろうとしている状況を座視するのではなく、点と点をつなぐ「線」の開発に進むときが来たのではないでしょうか。
特に中国が、スリランカの港を借款を返済できなかったことを理由にして、99年間運営を独占したやり方は、放置できない影響を生むはずです。「一帯一路」戦略が、経済活動以上の「形を変えた侵略である」とわかった以上、日本も対抗措置として、東西経済回廊への積極的な関与を行うことが、求められていると思います。
結局、それが一石二鳥、三鳥になって跳ね返ってくるのでは、ないでしょうかね。