<東京オリンピック> 新種目「空手」を待ちうける困難な未来

ついに東京にオリンピックフラッグがやって来ました。

「五輪・パラリンピック旗、都庁前で掲揚式」
2020年東京五輪パラリンピック大会組織委員会と東京都などは21日、リオデジャネイロから引き継いだ五輪旗パラリンピック旗の掲揚式を都庁前の都民広場で開催した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21HAS_R20C16A9CC1000/

早いもので、あと4年であります。そんな東京オリンピックに初めて参加する競技の一つに、空手があります。
 
■まだ決まっていないオリンピック「空手競技」のルール
なんと新種目の空手は、未だに正式ルールが決まっておりません。理由は、「寸止めルール」のみにするか、「セミコンタクトルール」との二本立てにするかで揉めているからです。レスリングのフリースタイルとグレコローマンスタイルの2つに分かれるようなものです。本来はもう一つ、極真空手を筆頭とする顔面パンチ以外なら何でもありの、「フルコンタクト」もあるのですが、これはIOCにルールとして採用されませんでした。

東京オリンピック追加種目入り目指す「空手」 競技ルールは?」
東京オリンピックの追加種目候補として空手を薦めている全日本空手道連盟のルールは、フルコンタクトではなく、「寸止め空手」だ。 
寸止め空手は攻撃部位に対し、寸止めで技を決め、勝敗を争うものだが、そこで問題となっているのが、国内外問わず多くの競技人口をほこるフルコンタクト空手を競技に加えなくても良いのかという問題だ。
新極真空手の緑健児代表率いる「全日本フルコンタクト空手道連盟」(公益社団法人JFKO)は「レスリングがグレゴローマンとフリースタイルのルールが二つあるように、オリンピックの空手でも寸止めとフルコンタクトの二つのルールを用いるべき」と主張している。
また空手関係者によると「一般的にルールが分かりにくいといわれる全空連の寸止め空手だけが採用されるのは種目選定の重要なポイントであるルールの分かりやすさという部分を考えても疑問に思う」と話す。
http://www.zakzak.co.jp/sports/etc_sports/news/20150805/spo1508051130001-n1.htm

IOCは元々安全度の高い、寸止めルールを指示しているとされ、主だったフルコンタクト系の空手の流派も、オリンピック種目成功へ向けて、寸止めルールを支持するという流れができていました。
が、私は空手の「寸止めルール」には危険がいっぱいだと思います。
 
■リオオリンピックでの格闘種目で何があったのか
まず、オリンピック種目で「全ての決着が判定のみ」という種目がないことに注目します。
柔道は審判が判定しますが、身体が完全に回転して落ちる様を一本にしないはずはなく、素人でもわかりやすい結果です。レスリングにも、両肩をマットに付けたら終わりの「フォール勝ち」がありますよね。
対して余りに攻撃が早く、判定が難しい競技にフェンシング、テコンドーがあります。2つの種目には一発逆転の手段はありません。ポイントを時間内に取っての優勢勝ちのみです。そしていずれも、機械判定を取り入れており、審判の微妙な判定をなくす努力をしています。
問題は、上に挙げたどの競技でも、「微妙な判定、疑惑の判定がなくなっていない」と言うことです。今年も日本はオリンピックの場でヘンな判定に泣かされました。レスリングなんかどう見ても髪を掴んでいるのに、なかなか審判は反則を取ってくれません。日本が金メダルを取り捲ったので、段々厳しい判定になったようです。オリンピックでは、公正を期すために、第3国の審判を配置します。それでもこういうことが起きるのが、オリンピックという場であります。だから空手でも同じことが起きるでしょう。
「今までもたくさん世界大会をやってきたけど、そんなことはなかったから大丈夫」と空手関係者は思うかもしれません。でも柔道だってレスリングだってちゃんと世界選手権を重ねてきましたが、オリンピックではやはり判定に泣かされてきたのです。柔道の「掛け逃げ」やレスリングの「手首や手の平を掴む」など、ルールの隙間を突いたグレーなプレイに対処するのにだって、何年も掛かってます。寸止めルールの「判断基準が、主審と副審の旗の数だけ」というやり方は、あっと言う間に混乱を生むでしょう。
 
じゃあ全てビデオ判定を行えば? まぁ現状それしか答えがありませんね。AKFの2015世界大会で、この全部ビデオ判定を行っています。

見ての通り、4:57や6:57のプレイなど、微妙な判定に時間が掛かっているのがわかります。つまり確実性は増すけれど、流れがブツ切りになってダレるわけです。でも、見てる側が何が起きたのかわからなかったり、コーチ陣が猛抗議連発などという事態を生むよりは健全性を保てるでしょう。ちなみにWKFの試合では、見てる側のサポートとして「小さなアニメーションを入れて、見てる側に説明」してますが、リプレイの代わりにはさすがになりませんね。
しかし、それでも問題が起きるのを止められないでしょう。それはリオオリンピックでも以下のような試合があったからです。

テコンドー 女子49キロ級決勝

http://sports.nhk.or.jp/video/element/video=26221.html

賛否両論となった試合です。ポイントを奪った韓国の優勝候補の選手が、警告が出ようと逃げ回り結局逃げ切りました。ちなみに倒れることも警告(イエロー)2枚で反則(レッド)1枚となり、同時に相手に1点入る仕組みです。反則(レッド)5枚で失格となります。
キャプチャー画像を見てください。微妙ですが画像の通り、残り0.01秒で倒れており、韓国選手の反則負けのはずです。しかし、判定は時間経過後の転倒で、韓国選手の金メダルが決まりました。相手側が納得せずビデオ判定を要求。しかしそれでも転倒は時間外と判定され、ひっくり返りませんでした。もちろん審判は韓国人ではありません。第3国の審判です。

つまりですね。ビデオ判定を取り入れたとしても、こういうことが起こるのです。まだ動画が見られるので、ホンマかいなと思う人は、自分で確認してみてください。(決勝スタートは2時間5分から)
 
■面白くなければオリンピックは逆効果
AKFの2015世界大会の動画では、フルコンタクトでは見られないいくつかのプレイが出てきます。
1 優勝候補のイラン代表はすぐさまアピールしまくり、審判見まくり。
2 日本代表は「入った」と思ったらすぐに逃げて、警告される。(7:58のプレイ)
優勢になったとき、「この1と2のプレイを駆使されたらどうするのか」という問題は考えておく必要があるでしょう。要するに、「優勢になったら、擬似攻撃をしてアピールしまくって時間稼ぎ」というプレイです。オリンピックという場では、世界選手権では見たことも無いプレイが出てくる可能性があります。その上、コーチが判定にケチつけまくって混乱しまくるようだと、さらに場が荒れるでしょう。
オリンピックは、それまで世界選手権を見たことも無い新しい視聴者が、山のように空手の試合を見ることになります。それは、新たな空手の裾野を広げる大きな可能性を秘めています。
同時に、不可解判定連発や選手やコーチの抗議連発のような事態になれば、未来の空手プレイヤーは「なんか面白くない」と思って意欲をなくしてしまうかもしれません。さらに今プレイしている人間でも、「夢のオリンピックがこんな舞台なのか」と失望する可能性もあるのです。オリンピック種目はビッグチャンスでもあり、同時に失望を買う逆効果の可能性もあるのです。テコンドーがそのいい例です。リオオリンピックで問題となった女子49キロ級決勝の試合は、韓国でも「つまらない」「逃げるな」など反響を呼びました。審判による判定のみの寸止め空手が、テコンドーの二の舞になる可能性は少なくありません。
 
■未来のために、『セミコンタクト』ルールとの二本立てを
私は、寸止めルールに加えて、手足グローブを付けての『セミコンタクト』のルールを採用を推進するべきだと考えます。そもそもボクシングだってオリンピック種目になっているのです。IOCの「安全性」うんぬんの言い分は、ダブルスタンダードだとしか思えません。
私には、全面判定だったテコンドーが、問題連発で機械判定を導入し、さらに毎年のようにルールを変えているのにも関わらず、人気が落ちている姿が、寸止め空手の未来にダブって見えます。
格闘技にも関わらず、相手を倒すことなくポイントで勝敗を決め、柔道の「一本」のような一発逆転もないというのは、既に茨の道が決まっていますよ。せめて『セミコタクト』ルールを入れて「K.O.」がある道を残さないと。それがたとえK.O.といっても、胴へのストレートばっかりだったしても。
「素人が見て、面白い空手の試合とは何か?」「メダル争奪戦となった時、選手やコーチが納得できるルールとは何か?」空手関係者は、その2つの視点を忘れず、4年後を迎えて欲しいです。