ソーシャルの実相 やっとゲットしたレアカードに、所有権が存在しないという真実

日経新聞電子報道部、井上理氏の渾身のレポートが話題となっています。
「行き過ぎたソーシャルゲームGREEで不正行為の内幕」では、自腹を切ってドリランドに挑戦し、まさに溶けるかのごとくお金を吸い取られる様が、自らの精神状態とともに綴られており、ドリランド複製事件の背景がよく理解できるものとなっています。 このレポートでは、事件の根を「換金市場」と「射幸性」の2つにあると指摘し、その実態に迫りました。まず換金市場について、もっと見てましょう。
 
■レアカードに所有権はあるか?
ソーシャルゲームの問題点のひとつに、RMT、つまり「換金市場」(リアルマネートレード)があります。ネット上の仮想通貨を、現金で換金してしまう行為のことですね。オンラインネットワーク先進国の、アメリカや韓国では既に違法化されています。日本ではまだ法制化されていませんが、日本オンライン協会がガイドラインを定めています。簡単に言うと、やはり日本でもRMTを認めていません。グリーやモバゲーの仮想通貨は「限定的な効力しか持っていず、金銭的な価値は無い」ということになります。
その結果何が起きるのでしょうか? 社団法人日本オンラインゲーム協会が、2009年8月定めたガイドラインで確認してみましょう。

「オンラインゲームガイドライン
【決済】
課金方式を問わず、ゲームプレイでのデータ(キャラクターやアイテム、セーブデータ等)はオンラインゲーム提供企業の所有するサーバー上にあります。前述の課金方式によりゲームのサービス利用料金、あるいはデータの限定的なサービス利用権を販売しており、データ自体の所有権につきましてはお客様にはございません。
データにつきましては、ご利用状況如何に関わらず、いつでも変更の可能性がありますし、オンラインゲーム提供企業によって、追加や削除、複製、仕様の変更などが行なわれることがあります。ゲームプレイによる各種データが不変であることを保証するものではありません。
http://www.japanonlinegame.org/pdf/JOGAonlinegameguideline.pdf

そうなんです。10万円を継ぎ込んでやっとゲットしたレアカードでも、プレイヤーに所有権が無いのです。では、いったい何にお金を払ったのか? ガイドラインによれば、ガチャを回すという「サービス利用権」を払い、ゲットしたレアカードは「限定的なサービス利用権」ということになります。
がしかし、「はいそうですか」と納得しがたい事実です。いったいなぜ、所有権が認められないのでしょうか?
 
■グリーは「ドリランド」レアカード複製問題で、なぜ違反複製者を訴えないのか?
グリーは違反者に対して、アカウント停止などの処置をしました。が、訴えるわけでもなく、違反者は複製カード売買は「やったもの勝ち」となっています。
普通、違反コピー品を売りさばいたら、威力業務妨害や詐欺罪で逮捕は確実ですよね。しかしグリーは訴えません。それどころか影響は無かったと宣言する始末です。総額1億円規模の金銭が、違法コピーで動いたにも関わらず。
この理由に、カードの所有権の有無が関わってくるのです。要するに1億円の損害を受けたと主張してしまうと、レアカードには総額1億円相当の価値があったと認めてしまうことになります。これは、300円のガチャシステムで、原価以上の価値のあるものをクジで提供したことになり、明らかに「賭博」に該当します。刑法186条第2項違反。れっきとした刑事犯罪です。
しかも行為が行われたのは、グリーが禁止しているRMT市場です。システム外で行われた行為が、実システムに損害を与えたということは、否定しているはずの所有権がレアカードに発生していることになります。だって所有権がないのなら、取引自体が不可能なんですから。損害を主張すると、実際にはレアカードに所有権が発生していることを認めしまうことになります。所有権のあるものを300円のクジシステムで提供していることになり、これも「賭博」に該当してしまいます。つまり、訴えると薮蛇に自分たちの首を絞めてしまうわけです。
では、バグ利用によるゲームバランスへのダメージ、システムの修復に対する費用として賠償を請求したらどうでしょうか?
が、これも実際には難しいでしょう。なぜなら、違反コピー者はシステムデータに侵入して、データ改ざんするといった行為をしていないからです。単に潜在的にあったバグを利用したに過ぎません。
例として「ジェイコム株大量誤発注事件」で見てましょう。2005年12月8日、東京証券市場において、新規上場したジェイコム株をみずほ証券が誤って1円で売り、株価が大混乱した事件です。元はみずほ証券の入力ミスでしたが、システムのバグが問題を大きくしたため、裁判では7:3で東京証券市場側に責任があると判決されました。みずほ証券側の責任に関しては、「初歩的な入力ミスをした」「警告表示を無視した」「発注管理体制にも不備があった」の3点により応分負担とされました。
ドリランド不正コピー問題の場合、「シリアル番号などの対策をカードに行っていなかった」「バグ発覚後も長期のわたり放置した」など、自ら問題を拡大させた責任も問われますから、裁判で違反者を追及するのは極めて困難だと言えるでしょう。
 
さて、ここまでグリーやソーシャルゲームベンダーの立場から見てきました。簡単に言うと、「痛い腹を探られたくないから、所有権を認めないよ」ということでしかありません。が、それでは納得できませんよね。苦労して手に入れたレアカードの所有権とRMTとは、基本的にユーザーにとって全く関係が無いからです。まぁ、所有権が問題になるのは、今回のようにRMTが絡んだ時だけなのですが。
結局のところ、日本では法制化が遅れているため、所有権の問題は、全くのグレーです。ちなみに海外では、仮想アイテムの所有権などは認める流れが顕著のようです。日本でも裁判になれば、所有権を認めないという判決は苦しいのではないでしょうか。特に今回の混乱に巻き込まれて、関係ないアイテムが消されてしまった場合、裁判所がアイテムの復活を認めない理由がありません。
 
■「換金市場」の加熱は、「射幸性」にあり
続いて「射幸性」の問題です。すぐにこの問題のグレーゾーンの王様「パチンコ」が出てきます。が、その「パチンコ」も風営法の網がかかっています。要するに成年しかパチンコ店に入れません。グリーやモバゲーは、風営法の枠さえありませんから、さらにグレーゾーンだといえるでしょう。
なにしろ現在のソーシャルゲームは、グリーもモバゲーも「ガチャ」システム抜きには語れません。はっきり言ってしまうと、現在数あるソーシャルゲームの高収益は、「ガチャ」システムに依存している状況です。

日本のARPU(ユーザーごとの収益平均:客単価)がその他の国から見ても高すぎて「日本人はバーチャルグッズを買いすぎなのではないか」と見る向きもあると小林氏。これを日本市場に特有の現象と位置づけたがる傾向があるが、小林氏自身はゲームデザインの差が大きいと考えている。「僕ならZyngaARPU(客単価)を5倍くらいにできる自信があります」とまで煽り、なぜZyngaがそれをしないのかについて松原氏(ジンガ・ジャパン代表)に見解を求めた。
 
森川氏(韓国NHN)は「日本でARPUが上がったのはガチャが入ってから。他の国では、見えるものに積極的にお金を払うが、日本では何が入っているかわからないという期待感にたいしてお金を支払う」と語った。そしてもう1つの要因として日本人のコレクション要素好きをあげた。
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20110919_478680.html

東京ゲームショウ2011のディスカッションで、「自分なら5倍の収益を上げられる」と豪語しているのが、DeNA社の小林ソーシャルゲーム事業本部長です。しかし実際には、モバゲーもグリーも、海外進出では芳しい結果を出せていません。1つは「ガチャシステム」が海外の法律に引っかかること。もう1つは、海外ユーザーは自分の力で打開するゲームに魅力を感じ、ガチャシステムのような運に頼るゲームを敬遠する傾向があるせいです。結局、グリーもDeNA社も、「高収益」を維持するために、日本のガチャシステムをひたすら増やす選択を取っています。
冒頭紹介した日経新聞の記事にも出てきますが、今の日本製ソーシャルゲームは、ガチャシステムでレアカードを出さないと、ゲームを進行できません。あとはトレード機能で、他人からレアカードを交換で手に入れるしか無いのです。そしてイベント戦などがどんどん増えています。
さらにソーシャルゲームには、3000円で11回ガチャシステムができるといったセット品などを販売しています。ゲームセンターにあるクレーンゲームなどは、「射幸性」を煽らないようにと、1回800円以下といった枠がありますが、ソーシャルゲームは平然とこの枠を突破しているのです。
はっきり言って、これを健全な経営手法であると判断すること自体、無理があると思います。ソーシャルゲームの「射幸性」について、何らかの規制が入るのは、時間の問題と言えるでしょう。
 
■意外と近いソーシャルの限界 
いくら日本人が、ガチャシステムにハマり易いと言っても限度があります。日経新聞が2012年2月9日に報じた記事には、その限界が言及されていました。

「国内ソーシャル3社に変調の兆し、事業モデルに弱点」
国内ソーシャルサイト大手3社の10〜12月期業績が出そろった。グリーが営業利益を前年同期比3倍強に伸ばしたものの、ディー・エヌ・エー(DeNA)とミクシィはともに営業減益で、収益拡大にブレーキがかかった。株価は会員数が伸び悩むミクシィは長期ジリ安傾向。DeNAは昨夏をピークに、グリーは秋をピークに、それぞれ天井を打った。市場は3社の業容拡大の勢いに変調を来していることを敏感に感じ取っている。
http://www.nikkei.com/tech/ssbiz/article/g=96958A9C93819696E2EAE29D8A8DE2EAE2E0E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2;p=9694E3EAE3E0E0E2E2EBE0E4E2EA

グリーもDeNA社も、第4四半期は持ち直すと言及しています。しかしその1月から3月の間に、ドリランドの違反コピー問題がありました。グリーは業績への影響は軽微だと発表しましたが、本当に影響は少なかったのでしょうか? 第4四半期の決算に注目したいと思います。