<輸出管理強化3か月>韓国の焦りと二階幹事長の余計な一言

7月から行われた輸出管理強化から、丸3か月が過ぎました。サムスンやSKなどの韓国企業にとって、備蓄していたフッ化水素の量が、枯渇する時期であります。
ただ、日本で9月26日に相次いで報道された、「フッ化水素の8月輸出はゼロ」報道については、経産省が否定する発表を出しています。

「主要メディアの「8月の韓国向けフッ化水素輸出ゼロ」の報道を経産省が否定」2019年9月30日
日本の経済産業省は、日本の主要メディアが軒並み「8月の大韓民国向けフッ化水素輸出がゼロ」と報道したことにたいして、この報道を否定するとともに、経済産業省として8月中も許可の対象となるフッ化水素大韓民国に輸出されていることを確認していることを発表した。
https://portal-worlds.com/news/asean/19252


財務省が発表する貿易統計と、経産省の輸出品目には、相違があるそうで、管理対象のフッ化水素案件が「再輸出品」という項目に入っていることがあるのだとか。上の記事では、「貿易実務に携わっているなら、通常認識していること」としていますが、わかりにくい話であります。

■肝心の液体フッ化水素の輸出がゼロ
一方、韓国の産業通商資源部は、10月1日に「日本の対韓国輸出規制発表から3カ月経過に関する立場文」を発表しました。
これによると、韓国側が敏感に反応しているのは、エッチングガス(気体フッ化水素)ではなく、ハイエンド半導体製造に使用される「液体フッ化水素」です。

「韓国政府「日本の輸出規制、非常に差別的」…3カ月間で液体フッ化水素の輸出許可0件」2019-10-02
「特に、半導体用の液体フッ化水素の場合、国連の武器禁輸国に適用される9種の書類提出を求めているうえ、数回の書類補完を理由に申請後90日が経ったにもかかわらず、まだ一件も承認されていない状況」だと明らかにした。
http://japan.hani.co.kr/arti/economy/34533.html

大事なのは後段です。「数回の書類補完を理由に」ということは、追加書類を数度求められた上、その書類が提出されていないことを理由に、審査が止まっているってことです。
このことについて、立場文は「4大輸出統制体制に加入していない国よりもさらに差別的に制度を運営している」と指摘しています。
つまり、経産省パブリックコメントまで集めて改正した輸出貿易管理令が、クリティカルに液体フッ化水素を直撃しているんですね。

では、その改正とはどんなものだったのでしょうか? 制度変更の文章は非常に分かりにくいので、簡単にまとめますと、以下のように申請書類の「様式6」が追加されました。


1 貨物の需要者の当該貨物の調達実績(過去3年間)
2 最終製品の生産状況(過去3年間)

要するに、「液体フッ化水素の調達実績と、それによって製造された製品リストを過去3年間分出しなさい」というわけです。もちろんこれは、韓国だけじゃなく全ての国の申請者が提出を求められますから、そこは差別的ではありません。実際「立場文」も「運営」を問題にしています。
おそらくですが、単に「リストが埋まっていればいいのか」、それとも「グラム単位で整合性を求められているのか」、の違いを言っているのでしょう。
製造に使われても、製品自体のロスも出るでしょうし、保存が難しいフッ化水素の廃棄分も出るわけです。そこで製品のロスが出たなら、その資料。廃棄が出たら産廃処理証明書を、全て求められてるのかもしれません。

実際、本当に資料請求されたら、大変な事務量になります。提出する方だけでなく、審査する側の手間も、半端ありません。
でも、未だに1件も審査を通過していないってことは、やってるんでしょうなぁ、それを。この審査の厳格化を「差別的」とするかどうかは、見解の相違ということになるんでしょうが。
結果、待ち切れなくなった韓国企業は、国産フッ化水素の使用を開始したようです。

「日本がフッ化水素の韓国向け輸出を許可 規制強化後2例目」2019年10月2日 
SKハイニックスは、規制強化後まだ1回も輸入されていない液体のフッ化水素については「1日に一部生産ラインに国産の液体フッ化水素を投入した」と明らかにした。
 先月初めにはLGディスプレー、サムスン電子などが日本の高純度フッ化水素の一部を国産品に切り替えている。https://news.livedoor.com/article/detail/17170009/

影響の少ない一部分に投入していた国産フッ化水素を、韓国企業がこの10月からどのように扱っていくのか、注目です。

■二階幹事長、その考えはもう古い
9月28日、読売新聞の二階幹事長のインタビューが、韓国で話題になりました。なにしろ各紙一面トップですよ。

「二階幹事長の発言「韓国に譲ろう」 日本ではベタ記事、韓国紙は1面トップの大騒ぎ」2019/10/ 1
『円満な外交が展開できるよう、韓国の努力も必要だが、まず日本が手を差しのべて、譲れるとことは譲るということだ』と述べた。二階氏は韓国政界に独自の人脈を持つ知韓派として知られる。『我々はもっと大人になって、韓国の言い分もよく聞いて、対応していく度量がないとダメだ』とも語った」
https://www.j-cast.com/kaisha/2019/10/01368865.html

元記事は、二階氏の政治姿勢に関するインタビュー記事で、タイトルも「二階氏、課題の山 改憲論議都知事選対応 党内融和に腐心」という政治全般に関するものです。

その中で韓国に触れたのは、たったの16行。韓国各紙が取り上げなかったら、誰も気付かなかったんじゃないかっていう記事です。

そこで言及された「韓国に譲って経済がうまくいくなら、譲ればいいじゃないか」という考えは、かつてなら、普通の思考だったと思います。なにしろ20年ぐらい前に、筆者も同じこと考えてましたからね。
しかし、今の日韓関係を見れば、その思考では現状維持どころか悪化の原因になってしまうのです。
実際、韓国側はこの二階発言をどう報道したでしょうか。

「観光客の急減に…二階幹事長「韓国に譲れるところは譲る」中央日報(2019.09.30)
二階氏が両国関係の改善を主張し始めたことをめぐり、「韓国内の日本製品不買運動日本旅行忌避による日本経済の打撃のため」という見解もある。韓国観光客の減少で西日本地域の経済が落ち込み、8月1カ月間の日本ビールの韓国輸出は昨年同月比92%減少した。
https://japanese.joins.com/JArticle/258051

不買運動のおかげで日本がすり寄って来た」という反応です。もうこの、「不買運動で日本がヤバい!」という報道は、韓国における日本の報道で大流行中でして、韓国報道だけ見てると、日本人はみんな安倍首相に激怒して、次の選挙では自民党は消え去るんじゃないかって感じるくらいです。もちろん単にマスコミが煽ってるだけなら、大した問題はありません。とりあえず「いつもの二階」で終わる話です。
でも、現在の色々と余裕のない韓国側はそうは取りません。韓国政府側ですら、間違ったサインとして捉えてしまっています。

韓国サイドから見ると、米国は悪化した日韓両国の仲介役を果たそうとしてこなかった。それが最近、ようやく重い腰を上げ始めたというわけだ。その米国の水面下の動きが「二階発言」という形で表れてきたと、韓国政府は見ているというのだが......。
https://www.j-cast.com/kaisha/2019/10/01368865.html?p=3

おそらく二階氏は『ごく一般的な意見』のつもりだったと思いますが、韓国政府は、「米国政府によって日本が軟化した」と見てる可能性があるのですね。日本政府としては、「韓国政府が具体策を取る」事無しに何らかの行動は取らないと、再三言ってるはずですが、またその理解が遠くなる可能性があるのです。で、何が起こるのかというと、全く関係ない国際会議で、福島原発問題を取り上げたりといった、暴走するのですよ。

幹事長という立場であるならば、二階氏はもっと余計な一言に注意を払う必要があるでしょう。その方が日韓関係の解決は、どんな形であれ、早まると思いますよ。新たな日韓関係のために、まっすぐ進んでいって欲しいですね。