誤報でない次世代CELLの開発中止。そしてインテルはLarrabeeの開発を中止。

2つのCPUのロードマップが相次いで変更されました。実は両方ともPS3の後継機種のCPUに影響を与える存在です。

IBM、「CELLプロセッサ開発中止」のうわさにコメント」
Heise Onlineの記事で、IBMのディープコンピューティング担当副社長デビッド・トゥレック氏は、スーパーコンピュータやHPC(高性能コンピューティング)分野向けの次世代版CELL「PowerXCell 32i」を開発中止すると語っていた。このプロセッサは、2個のPPE(PowerPC Processor Element)と32個のSPE(Synergistic Processing Elements)を搭載する計画だった。
IBMは11月24日の声明文で、CELLプロセッサは、「コンピューティングの将来はマルチコアとハイブリッド技術の統合にある」という同社の信念の基盤を成すものだと述べている。「IBMはこのハイブリッドとマルチコアの戦略の一環として、来年登場するPower7を基盤とする新システムなど、CELL技術への投資を続ける」と声明文にはある。
IBMがCELLプロセッサの新版の開発を続けるかどうかは分からない。だが同社は声明文で、「ソニーPS3向けにCELLの製造を続ける。ゲーム市場向けの次世代プロセッサ開発を楽しみにしている」と述べている。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0911/25/news030.html

誤報だ、いや開発中止だ、と揺れたこの情報。現在、IBMのハイパフォーマンスコンピューティング戦略がどうなっているかわかると、今この情報が出てきた理由がわかります。
では、そのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の柱を見てみましょう。
1 POWER系
2 PowerPC
3 CELL系
以上、3つもあります。
1のPOWER系は基幹シリーズであり、来年早々には最新CPU「POWER7」の登場が約束されています。用途は主に業務用サーバです。IBMだけでなく日立などサードベンダーもこのCPUを採用して新機種を出しています。

IBM、新仮想化機能とPOWER+6プロセッサ搭載のブレードサーバを発表」2009年5月12日
http://journal.mycom.co.jp/news/2009/05/12/062/index.html

「日立、POWER6+で処理能力向上の「EP8000シリーズ」エントリモデル発表」
http://journal.mycom.co.jp/news/2009/05/27/033/index.html

次のPowerPC系は、元はマックに載せるCPUとしてモトローラやアップルと開発してきたラインです。その後Xbox360Wiiに採用されているカスタマイズCPUの側面と、PowerPC400シリーズを載せたスーパーコンピュータBlue Gene系列と広範な用途に変わり、これまた基幹といっていいシリーズです。最近は9月に組込み用途で新CPUを発表しています。

IBM、組み込み向けSoC用の次世代PowerPCコアを発表」2009年9月24日
http://journal.mycom.co.jp/news/2009/09/24/026/?rt=na

消費電力は1.6Wと低いのに、1.6GHzで稼動するという凄まじい省エネCPUです。用途が違うので単純比較はできないのですが、5W程度で729Mhzの性能を出すWiiよりも1W当たりの性能が高いです。基幹のPower6から、省エネしながら性能を上げる技術においてIBMはブレイクスルーをしたようで、その技術を導入したCPUは、性能向上がハンパではありません。任天堂Wiiの次のCPUもPowerPC系を採用すると見られ、Power6の恩恵を存分に受けた省エネ高パフォーマンスのCPUが次のコアCPUになるのではないでしょうか?
 
そして3番目。PS3のCELLですね。PowerPCをコントーラとして1つ載せ、演算エンジン8つを統括させる小さなベクターマシン。今回停止するのが、このCELLラインの開発ですね。もともと3つもラインがあったディープコンピューティング分野ですから、採算の合わないどれかを止める可能性は常にありました。
このCELLラインの開発ロードマップを、2008年3月11日に開催されたIBM開発者セミナーの資料で見てみましょう。
メインストリートにあるのは、PS3に使われているCPUです。2008年に「PowerXCell 8i」を発表。これを使ったスーパーコンピュータ「ロードランナー」は、つい最近まで、世界トップの性能でした。また2008年10月に「BladeCenter QS22」というサーバを出しています。そしてロードマップの一番右上にある「2*PPE + 32*SPE」のCPUが「PowerXCell 32ii」です。第1報で開発中止と報道されたCPUですね。見ての通り、2010年登場予定でした。
が、この計画が3ヵ月後の2008年6月10日のセミナーで変わってしまいます。
「2*PPE + 32*SPE」という構成だった32iiが、「4*PPE + 32*eSPE」という構成にグレードアップしています。周波数も3.2GHzから3.8GHzに上がっていますね。しかし発表時期が半年後ろにズレて2011年にかかっています。
理由は思ったような性能向上が望めなかったこと。下の海外のニュースサイトでも指摘されているのですが、「PowerXCell 8iv」の段階で既存のグラフィックスカードに追い越されるつつあるのですね。

IBM Cans Next-Generation Cell Processor, Plans to Change Cell Concept.」
http://www.xbitlabs.com/news/cpu/display/20091123233555_IBM_Cans_Next_Generation_Cell_Processor_Plans_to_Change_Cell_Concept.html

そして今、開発中止の情報が出てきたわけです。
でもこの開発中止の情報が「誤報である」と報道されました。根拠が以下のニュースサイトです。

IBM have not stopped Cell processor development」
IBM spokesperson an hour ago and they said that only one CPU development cycle is being 'halted' which is the successor to the current PowerXCell-8i cpu.
(1時間前、IBMのスポークスマンは、現在のPowerXCell-8i cpuの後継者であるCPUの開発サイクルだけ'中止した'と言いました。)
http://www.driverheaven.net/news.php?newsid=344

実はIBMの広報担当者の言葉だけを拾うと、第1報も大枠で間違っていません。「PowerXCell-8i」の後継CPUはいつの時点でも1つだけであり、これが止まったということは、次世代CELLの中止にほかならないからです。開発が続いている他のものは、ロードマップにある通りPS3用Cellのシュリンク東芝の派生製品ということになりますね。
それに2008年に何度か開催されていたCELLのセミナーも、2009年には行ってから1度も開かれていません。これは日本だけでなくアメリカでも同様です。さらに毎年2月に開かれる国際シンポジウムISSCC 2010のプログラムに、必ずIBMが行っていたCELLに関する発表が無いことがわかっています。初代CELLの発表からずっと行われてきたIBMの発表が無いのは、CELLの開発ロードマップに大きな変化があったことを示しています。たとえ開発していたとしても、2010年後半に出てこなければならない後継CPUが、2011年にズレ込んだのは間違いないでしょう。
PS4がCELLを採用しようにも、開発の遅れで採用できないと言うことになります。



そしてインテルLarrabeeの開発を中止
PS4が出るとして、CELLの対抗馬として注目されていたのがインテルLarrabeeです。インテル版CELLと言われ、グラフィックチップとの統合も視野に入れた意欲的なCPUです。もし採用されていたら、本体価格はCELLの場合より安くなったかもしれません。
しかしこれまた発売延期を繰り返し、結局当初予定の性能を出せず、姿を消しそうです。

IntelLarrabeeをキャンセルか、現時点でGPUとしての販売計画はなし」2009年12月7日
Intelは当初Larrabeeの2009年内のリリースを計画していたものの、開発の遅れから2010年リリースへと目標時期をずらしていた。2009年9月に米サンフランシスコで開催されたIntel Developer Forum (IDF)ではLarrabeeを用いた物理シミュレーションデモを初披露、一部ソフトウェア開発者向けにサンプルチップの配布を行ったことを公表していた。今回の計画キャンセルの理由は不明だが、ソフトウェア開発環境が整っていないこと、性能が当初の想定ほど引き出せなかったことなどが予想される。
http://journal.mycom.co.jp/news/2009/12/07/047/?rt=na

一応開発は続けるよとコメントしている点でも、上のCELLの開発状況と似ていますね。CELLと同じく、いつ出るかわからないCPUを待ってるわけには行きませんので、PS4への採用は難しいと言えそうです。
 
CELLでもなくLarrabeeでもないなら、次のPS4のCPUはどうなるのでしょうか?
それを示唆するニュースは既に報道されていました。

「ニューヨークのIBM工場で増員−「任天堂ソニーから仕事が来ている」2009年7月25日
海外サイトrecordonlineが現地からの情報として伝えるところによりますと、East FishkillのIBM工場ではスタッフがミーティングに呼ばれ「任天堂ソニー、フリースケールからの仕事が来ている」と伝えられたとのこと。
http://www.inside-games.jp/article/2009/07/25/36570.html

WiiのCPUは、ソフト資産の継承も考えるとPowerPC系であることが確実です。その任天堂と同じ時期に発注を行ったソニーも、PS4のCPUを決定したのでしょう。それは開発目処の立たないCELLやLarrabeeではもちろん無理なので、任天堂と同じPowerPC系の新CPUに決定したのだと思います。
つまりPS4という最重要顧客を失ったからこそ、CELLの次世代開発はその重要度を失い、今回の発表となったのではないでしょうか?
Power6の技術をふんだんに使った新PowerPCの場合、5Ghzを超える4スレッド4コアレベルのカスタマイズCPUとなるはずです。今のハイエンドパソコンは3GHzをうろうろしてますから、PS4は間違いなく高性能機路線の最先端をいくことになるでしょう。



「週間ハードセルスルーランキング」(2009年11月30日〜12月6日)メディアクリエイト
Wiiがマリオ効果で10万台越えを果たしました。しかしPS3の方も、いよいよFF発売となります。10万台越え同士の熱い戦いの結果に注目です。
PSPgoはやっぱり下がってます。ついにXbox360より少なくなってしまいました。あと下にはPS2しかありません。これから持ち直すことができるのでしょうか?

機種 10月5週 11月1週 11月2週 11月3週 11月4週 12月1週
PS3 36,061 48,925 38,498 34,752 46,558 57,782
Wii 28,888 31,810 26,764 32,844 46,673 106,555
Xbox360 6,047 4,679 4,124 4,085 3,685 5,314
PS2 1,966 2,066 2,031 2,024 2,057 2,277
DSi 37,517 37,421 33,749 32,070 37,021 51,635
DSll - - - 100,553 67,243 53,791
PSP 34,911 33,784 38,770 32,752 38,839 67,880
PSPgo 29,109 13,992 6,427 4,574 3,809 3,412