日本のゲーム市場は米と14倍、欧と10倍差? 「電ファミ」大誤報で執筆者が開き直って大炎上

日本のゲーム市場規模が、欧米のゲーム市場規模に比べて、著しく低くなっているという「事実」から、欧米のゲーム開発体制を学ぶべしという記事が出ました。

「米欧日の家庭用ゲームソフト市場は14:10:1の比──なぜ日本のゲームメーカーは世界で戦えなくなったのか【西田宗千佳:新連載】」2018年1月15日
http://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/180115

が、常日頃日米欧のゲーム市場を追っているゲームフリークから見れば、ここまでの差は無いと即座に気付くレベルの内容です。実際、この市場規模の数値は、欧米はスマホなどを含み、日本はコンシューマ市場のみという明らかな間違いが判明しました。

【記事およびデータ訂正のお詫び】
読者の皆さまへ
 平素は電ファミニコゲーマーのご愛顧、誠にありがとうございます。記事掲載の数値について、お詫びと訂正を申し上げます。
 2018年1月15日に掲載いたしました時点での記事【米欧日の家庭用ゲームソフト市場は14:10:1の比──なぜ日本のゲームメーカーは世界で戦えなくなったのか】におきまして、タイトルにも使用しております米欧日の家庭用ゲームソフト市場の数値に誤りがありました。正しくは16:15:6になります。

数字や図表は、即座に修正されたのですが、この記事自体が「日本市場は、かつての勢いを無くし、欧米にボロ負けしている」というデータを元に組み立てられた記事ですので、全く説得力を失ってしまいました。これだけでも炎上する要素満載なのですが、その前後に渡る執筆者の発言と、開き直った言葉が更なる炎上を呼んでいます。
 
■どや顔のツイッターで宣言が燃料に
まず記事公開前後のツイッターの内容が、凄い上から目線でした。

Munechika Nishida‏
@mnishi41
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その他
昨日公開の電ファミの記事について。まじめに、議論が新しいとか古いとか、どうでもいい、と思っています。読者側の認識をとりあえず整理しないと、という編集部側との話し合いの末にできたのがあの序論。あのグラフを示した段階で役割の8割は終わってて、その先は補足に過ぎません。
20:06 - 2018年1月15日

岩崎啓眞@スマホゲーム屋@snapwith
返信先: @mnishi41さん
ウッギャー、マジでこんな記事書きますか!wwwww

Munechika Nishida@mnishi41
だって、ほかの人が書かないのだもの。まあ、いろいろ見方はあると思いますが、そろそろ「日本はゲーム大国で」みたいなお花畑から出てもらいたいですし。

岩崎啓眞@スマホゲーム屋@snapwith
カケラもゲーム大国とは言えないですね。僕は最近は「日本式ではスマホは海外で勝負できないから止めれ、金があるうちにグローバルで生きられるようにしろ!」と言いまくっていますがw

Munechika Nishida@mnishi41
いやいや、まったくおっしゃる通りで……

グラフだけで8割終わってるとは凄い話です。なによりその肝心のグラフが間違っていたということは、記事の意味がほとんどなくなっているということではないでしょうか。そしてこの間違ったグラフによる記事を見て「ウッギャー」と叫んでるのが、同じく「電ファミ」ライターの岩崎氏であります。一応業界の人間のはずなのに、この酷いミスを見てすぐ気付かなかったが不思議な話ですね。
また、岩崎氏が「こんな記事書きますか」と言い、西田氏が「だって、ほかの人が書かないんだもの」と書いてますが、この認識は大いに間違っています。後ほど指摘しますね。
 
■本当のグラフから見える真実とは
さて、誤報が伝わった段階の西田氏の反応が、以下のようなものでした。

Munechika Nishida@mnishi41
若干反省する事案が発生。任せたとはいえ、やはりきちんと精査すべきであったか。

Munechika Nishida@mnishi41
データの方向性がまったく違っていたのであれば訂正しますが、そうではなく、比率の数字グラフが正しくなかった、ということです。

方向性は合ってるから訂正しないというのですね。その判断は正しいのかどうか。修正したグラフを参照してみましょう。

まず、目に付くのは、日本市場の地盤沈下……ではありません。2008年をピークとした欧米市場の激減です。アメリカ市場なんか、ピーク時の約6割減という途方も無い下落です。プラットフォームとの比較を見ればわかるとおり、ピークの2008年は、WiiとDSの大ヒット。そして市場の衰退はWiiU3DSの不振と合っています。Wiiの時にはPS3も発売されてますから、「ハイエンドゲーム機の影響もなくはなかったと言える」と思いきや、PS4の発売で欧米の市場は維持すら出来ず、下落しているのです。
つまり当該記事における結論は、以下のようなものではありません。

技術力の有無よりも、技術に対する取り組み方の違いが、数年間の間に大きな差となり、さらに海外と日本の間での嗜好の違いが積み重なって、「日本のゲームが海外では通用しづらい」、「海外で大規模に売れるゲームにならない」状況を生み出したのでは……という結論に至る。

本当の結論は、そんなお花畑な内容ではありません。
コンシューマゲーム市場とは、任天堂のヒットにより支えられ、任天堂の不振による衰退している」という衝撃的事実であり、「欧米AAAソフトが小さいパイを、ネームバリューで食い合いことで、つまるところハイエンドゲーム機と欧米のAAAタイトルは、淘汰の最中にある」という全く逆の結論なのです。
 
■そんな話は10年前に聞いた
西部氏は「だって、ほかの人が書かないんだもの」と言っていた、欧米ゲーム開発現場の話ですが、とっくの昔に話題になっています。表を見ればわかるとおり、2008年にはアメリカのゲーム市場規模は、日本の5倍を超えました。その状況を見て、「欧米ゲームこそゲーム開発の未来」と持ち上げる報道が連発したのです。ちなみにその先鋒を務めたのが、新清士氏ですね。

Xbox360Gears of War」が見せた先進の開発力 デジタル家電&エンタメ-新清士のゲームスクランブル」2007/01/20
http://it.nikkei.co.jp/digital/column/gamescramble.aspx?n=MMITew000019012007

残念ながらリンクは切れてしまっていますが、上記の記事は、まさに「モジュール化開発」と「日本風の少人数開発」の組み合わせて、最先端ミドルウェアを駆使し、「ゲームシステムを洗練させることに全力を注ぐ」という、「アメリカ開発陣凄し」記事の典型であります。
また当ブログでも取り上げた以下のような記事がありました。

「日本も外注先に?ゲーム開発費高騰で進む国際分業・GDC08報告(2)」2008/03/09
アメリカのゲーム開発者の全職種の平均給与は7万3316ドル(750万円)と非常に高い額になっている。職種別でもっとも高いのがプログラマーで8万886ドル(約830万円)。グラフィックを担当するアーティストで6万5107ドル(約670万円)、日本の企画職にあたるゲームデザイナーで6万1538ドル(約630万円)となっている。年収が1000万円を超えるプログラマーはざらにいると言われている。特にエース級のプログラマーであれば数千万円という、日本ではにわかに信じられないような高額の給料を得ている人もいるという。

これも新清士氏の記事です。「莫大な金額を投入し、世界規模で開発を行う欧米ゲームメーカー。これからの日本は、アメリカの外注先になっちゃうよ!」という大変刺激的な記事でした。
しかし、その1年後、事態は急変。アメリカ至上主義の論調は消え去るのです。

「破綻するビジネスモデル〜欧米ゲーム市場の危機」2009年02月18日
ところが年が変わって状況が一変します。
海外ゲームメーカーの巨頭、EAとアクティビジョンリザードが共に赤字に転落したのです。
ソフトのデキが悪くて、売れなかったのなら問題は簡単です。
でもそうではありません。上記のゲームメーカーは、それぞれ看板となるソフトを発売し、しっかり100万本を軽く越える売り上げを記録しているのです。
売れているのに儲けが出ない。それも倒産寸前になるほど赤字が出てしまう。これは明らかに歪んだ状況です。
http://d.hatena.ne.jp/tenten99/20090218/1234973462

10年前に破綻した論理を、今更どや顔で持ち出してどうするのでしょう? 
今回修正されたグラフをよく見てください。欧米ゲーム市場は衰退しているのです。2008年からずーっと。PS4が発売されても、市場の拡大どころか維持すらできていないのです。
自らの市場を成長させられない欧米の「プロジェクトマネジメント」は本当に正しいのですか? 
結果として市場が衰退しているのに、欧米の技術に対する取り組み方が、本当にゲームの未来を切り開くのですか? 
激減する市場の中で黒字化するために、欧米ゲームメーカーは、縮小再生産でなんとか凌いでいるのでないですか? 
 
岩崎氏だって「ウッギャー」と叫んでる場合ではありません。10年前の欧米市場の危機を知らなかったのでしょうか? 
スマホが出ても大きく変動しないで維持し続ける日本の市場は、ゲーム大国と言えませんか?
スマホも含めた世界のゲーム規模は、日米欧で1:2:1.5だと今回判明しましたが、欧米の国民数に対する日本の国民数を比較して、ゲーム大国だとは言えないのでしょうか?
 
今、ニンテンドースイッチWiiの再来のようにヒットしています。もしこれで世界のゲーム市場が上向くことになったら、「任天堂の興亡が、世界の市場を左右する」という衝撃的な事実の証拠が増えることになります。それは正しいことではないわけで、ではどうすればいいのかということを、世界のゲーム会社が取組むべき課題になるでしょうね。